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かなりの時間、私は雨の降る森の中にいる。
「レインさん。雨、どれくらい貯めるの?」
『できれば貯雨ゲージを80%にはしたいが』
「今は?」
『10%だ』
「それくらいですか」
はー、この時間で10%なら何日もかかるよね?
すごい大雨だったら1日くらいかもだけど。
『しかし、もうすぐ雨はやむ』
「そうなの?」
じゃあ、町に帰れるね。
『私が許可するまで森から出るな』
「え?」
『それまでに誰か近くに来たら教えるから』
「はい、隠れます」
私はコミ症なので。こんな森の中で誰かと対面とか嫌だしね。
『私を隠せ』
「え?」
『F級冒険者のアンブレカが私みたいな珍しいマジックアイテムを持っていて見つかると、どうなると思う』
「どうなるの?」
『悪い奴にいろいろされ、所有権を無理やり奪われる可能性がある』
「ええっ!?」
私、悪い奴らにいろいろされるの?
『だからな、私をうまく使いこなせるようになるまでこの森から出るな』
「う、うん。あ、でも食事とか」
『心配するな』
「え?」
『私を誰だと思っている』
「誰って、マジックアイテムのレインさん?」
『すごいマジックアイテムのレインだ』
「うん」
だいたい自分をすごいって言う人は、だいたいそんなにすごくないけど。
『B級冒険者レベルだ』
「え?」
『私を最低限に使うには、B級冒険者レベルの身体能力が必要なのだ』
「ええっ!」
聞いてないよ、そんなの。
『私を閉じてみろ』
「え?」
『最初に私を拾った状態にしてみろ』
「あ、うん」
閉じてどうするんだろ。
円形に広がっているレインさんを閉じて留め金を止めた。
「うわっ!」
ドスン
レインさんを地面に落としたよ。
「ご、ごめんなさい」
え? レインさんがすごく重たくなったんだけど。
『問題ない。今の状態の私の重さは11キロだ』
「え? さっきまで片手で普通に持てるくらい軽かったけど」
『貯雨モードの私の重さは1キロもないからな』
「えっと……レインさんは開くと軽くなって閉じると重くなる?」
『そうだ。そして問題だ』
「うん。それは問題だよね」
持ち運びに大変だもんね。
『違う。今から問題を出す』
「あ、うん」
問題?
『貯雨10%の私の重さは11キロ。さて、貯雨100%になった私の重さは何キロになるでしょう』
「えっと……101キロ?」
『正解だ』
「やったー」
『その重さの私をF級冒険者の君は持ち歩けるかな?』
「あ、絶対に無理だ」
『だろうな』
「うん」
あ、でも。
「あの、私は少しだけ魔法を使えてですね、100キロくらいまでなら30キロくらいに軽くして持ち運べます」
30キロの重さならなんとか運べるかも。
『異空間収納魔法ならともかく、その程度の魔法は私には無効だぞ』
「そうなの?」
『ふっ、私はすごいマジックアイテムだからな』
そんなドヤ顔されても。いや、顔なんてないけど。
それに、そんなすごいマジックアイテムなら、重くなったりしないでよね。
あ、そうだ、私のご飯は?
「あの、レインさん。私がB級冒険者レベルの身体能力になるまで何日くらいですかね」
『分からない』
「え?」
『君の努力次第だからな』
「そりゃあそうでしょうけど」
死ぬ気で頑張っても3年くらいかかるんじゃないかな?
私、せいぜいE級冒険者くらいでのんびりと生きたいんだけど。
それに、重さ100キロのマジックアイテムを軽々と持ち歩けるって、私はどんな筋肉マッチョになるんだよ。
もう、貴族様か買い取り店に買ってもらおうかしら。
『とりあえず食事だな』
「え?」
『ランチメニューを出してやる』
「えっ? わっ!」
レインさんからなんか出てきた。
えっ? なんかすごく美味しそうな料理の絵がたくさん。
どれも見たことない料理ばっかりだ。
しかも、私の眼の前に浮かんでいて触っても動かない。
どうなってるの?
「すごい絵ですね。料理がまるで本物みたい」
『まあ、写真だからな』
「しゃしんだから?」
『それより、どれを食べるか選んでくれ』
「あ、はい」
選んでどうなるの? レインさんがこの森の中で料理してくれるの?
なんとかしてくれるんですよね?
絵じゃお腹はふくれないんだよ。
「えっと……これ、美味しそう。ハンバーグセット? ハンバーグってなんだろ。あ、でも、この三種のフライトンカツ?セットも美味しそうな。うーん、こっちもいいかも。あー、じゃあ、この照りマヨ玉子ベーコンレタスハンバーガー?セットが食べたいです」
『出してやるから、3分待て』
「さんぷん?」
『1分は数字をゆっくり60数えるくらいの時間だ』
「なるほど。じゃあ3✕60だから180ですね」
『そうだな』
私は数をゆっくり数えた。
チーン
「え? なに?」
『料理ができた時の音だ』
「はあ。うわー」
眼の前に本物の照り焼きタルタルハンバーガーセットが出てきたよ。
これ、本当に食べれる物なの?
この飲み物は。
飲んでみた。
「あ、麦茶だ」
『コーラとかの炭酸飲料は好き嫌いがあるから麦茶にしておいた』
「はあ」
コーラトカノタンサンインリョウ? どんな飲み物なんだろ。
これは。
「あ、ホクホクして少し塩味で美味しい」
『フライドポテトだ』
「へえー」
わかんないよ。
「あ、このスープも美味しい」
さて。満を持していざ、メインの照りマヨなんとかを実食。
もぐもぐ、もぐもぐ、ごっくん。
「美味しいー!」
『そうか』
「すっごく、すっごく美味しいです!」
『そうかそうか』
ふー、完食したよ。
あ、代金とかって。
「あ、あの、この料理っておいくらほど」
『プライスレスだ』
「え?」
『無料だ』
「0エン?」
『そうだな』
「代わりに私の身体をどうにかするとか?」
『君の身体に興味はない』
「はあ、さようで」
無料なの、1日1回かな。それとも今回だけ?
『1日、3食は無料で出してやる』
「えっ!? いいんですか?」
『ああ』
とすると、レインさんを所有していたら食費がいらないってことだよね。
レインさんを1億円で売るよりいいのかしら?
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