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1ヶ月ぶりくらいに森から出て、私が生まれて育ち住んでいる町が見えてきた。 私が主に冒険者活動をしている森は町からそれほど遠くない。 私は孤児で孤児院で育ち、今は冒険者をやっているのだ。 森の中で拾ったマジックアイテムのレインさんは、大きな袋の中に入れてある。 冒険者ギルドに到着した。すごく久しぶりだ。 音を立てないようにギルドの中へそ~っと入る。 みんな私がかなりのコミ症だと知ってるから、誰も私に話しかけてこない。 まあ、話しかけられると私は不審者みたいにキョドるから助かるよ。   森の中でトレーニングついでに高く売れる薬草やキノコを採取してたんだ。 あの森の中では高い種類だから、そんなに高い物ではないけどね。 S級冒険者が狙う薬草やキノコなんて、キノコ1つが1億エンとかするとか。 1億エン……どれだけスイーツが食べれるのやら。 この時間は買い取り窓口は空いてるから来たんだ。 思ったとおり、買い取り窓口に並んでいる人はいない。   窓口にそ~っと冒険者カードを出した。 「あっ、アンブレカさん。1ヶ月以上も来ないので死んだ……心配してたんですよ」 この声はギルド職員のメリーさんか。 下を見てるから声を聞くまで誰かわかんないんだよ。 ぺこり 頭を下げる。 「いえ、怒ってはないです」 ぺこり 「今日も薬草やキノコとかですね」 うなずく 査定中。 この待っている時間が私はすごく苦手だ。 何をしてたらいいのかまったく分からない。 ギルドの床板の年輪を数えるくらいだよ。 「お待たせしました」 ぺこり 「とても保存状態が良かったです」 レインさんが異空間に保存してくれてたからね。 異空間では劣化しないらしいから。 「7万エンです」 おおっ、なかなかの稼ぎだよ。 ぺこり。 頭を下げてお金を受け取る。 やっぱり保存状態がいいと高く買い取りしてくれるんだな。 あ、宿の解約と冒険者を辞める手続きをしないと。 案内窓口へ。 冒険者カードを出す。 「はい、ご要件は」 宿の宿泊契約を解約したいとジェスチャーする。 「なるほど、宿泊契約を解約ですね」 何回かやって分かってもらえた。 ぺこり。 「アンブレカさんは1ヶ月更新の契約なので、月途中の解約だと解約料が5万エン必要になります。なので、預かっていた保証金の5万エンは返金できません」  うげっ。 返金なしか〜。 しかたないか。1ヶ月更新のほうが割安だったから、トータルで損はしてないし。 冒険者登録を取り消したいとジェスチャーをする。 「えっ? 冒険者を引退するのですか?」 うん。 「失礼ですがアンブレカさん」 ん? 「冒険者を引退してどうするのですか?」 うん? 「極度の人見知り冒険者アンブレカ。有名ですよ」 いやー、それほどでも。 私、そんなに有名なの? 「そんなアンブレカさんが冒険者を引退して食べていけます?」 うん。食べていけますとも。 「本当に? 困ったことや悩みがある冒険者のカウンセリングをするのも冒険者ギルドの仕事です」 うん? 今のこの状態がすごく困ったことなんですけど。早く森へ帰りたいんです。 「相談室へどうぞ」 え? 「さあ、遠慮しないで」 流されるように相談室へ。 いや、何をしてるんだ私は。 「女性冒険者の相談担当、イリーです」 ぺこり。 「冒険者を引退したい理由は何でしょうか」 うーん。 「ご安心ください。誰にも言いませんので」 何とかどうにかジェスチャーで説明した。 「……アンブレカさんのジェスチャーをまとめると、森の中で拾ったマジックアイテムは会話ができて、無料で食事や服とかを出してくれて、病気になると無料で治してくれて、服や身体の汚れもきれいにしてくれる?」 うん。 「町の近くの森にそんな超レアなマジックアイテムが落ちていたと?」 うん。 「……アンブレカさん。変な薬とかやってますね」 ふあっ? 「それか、変なキノコとか食べましたね」 食べてません。お腹空いても食べません。 そうだ。 私はレインさんを大きな袋から取り出した。 「レインさん、出番です」 『うむ。私が話さないと前に進まないようだな』 「先生、お願いします」 『任せておけ』 いやー、レイン先生は頼もしいな 『イリーさんとやら。私がすごいマジックアイテムのレインだ。何でも聞いてくれ』 「……アンブレカさん、腹話術をしてますよね?」 腹話術? 『面白い』 「え?」 『そう、実は腹話術をしている』 「やっぱり」  『極度の人見知りアンブレカはこれを持って話すとペラペラと話せるのだ』 「なるほど、別人格になると」 『そうだ』 「納得しました」 『そして、私は冒険者を引退しない』 「はい、えっ?」 ええっ!? いや、待ってね。何を言ってるのレインさん。 『悩みを聞いてくれてありがとう。失礼する』 「あ、はい」   これ、帰っていいんだよね? 相談室から出る私。 ふたたび森の中へ。 「レインさん、どういうこと?」 『この森で死ぬまで暮らす。そんなのはつまらん』 「いや、私はつまらなくないけど」 むしろ、コミ症の私には最高なんだけど。 『人見知りなど場数をこなせば何とかなる』 「別に何とかしたくないし」 『冒険者たる者、胸が踊るような冒険をしたくないのか?』 「いや、別に」 むしろ冒険者を引退したいし。 『しかし、アンブレカのユニークスキルは面白いな』 「え?」 ユニークスキル? ユニークスキルって、あのユニークスキル? 1万人に1人くらいしか持ってないという固有スキルのユニークスキル? 「私がユニークスキルを持ってるの?」 『持っているぞ』 「どんな?」 『気配を消す隠密スキルだな』 「へー」 私って、そんなユニークスキルがあったんだ。
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