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王都は東西南北エリアに分かれていて、冒険者ギルドや商業ギルドも各エリアに1つあるらしい。
王都は広いからね〜。
西エリアの商業ギルドへ到着した。
東西南北、どのエリアの商業ギルドがいいのかわからない。
どこも一緒かもだし、違うかもだけど。
レインさんが交渉してくれた。
私は極度のコミ症(人見知り)だから人とはまともに話せないのだ。
「S級冒険者ほどのお方が商売をやられるのですか?」
商業ギルドの職員さんが困惑してる。
『我が主はS級ではないぞ』
「違うので?」
『うむ』
「申し訳ございません。これほどの超レアマジックアイテムを所有なので」
『実力はS級だが、面倒なので昇級試験を受けないのだ』
「はあ、なるほど」
『それに、我が主は冒険者活動より商売に興味があるそうだ』
「なるほどなるほど」
『で、1億エンほど借りたい』
「はい?」
『うむ、助かる』
「あ、いえ、1億エンの借り入れをご希望ですか?」
『そう言ったが』
「えっと……大変に失礼ですが保証人様や担保はございますか?」
『ない』
「さようで、はい?」
『保証人はいない。担保もない』
「あの、それだとご融資は無理かと」
『そうか、私を担保にできるか?』
「それなら1億エンのご融資は可能ですが、返済完了まで当ギルドの金庫に保管となりますけどよろしいので?」
『よろしくない』
「では無理ですね」
『そうか、邪魔をした』
「はあ」
『アンブレカ、帰るぞ』
こくり
我が主をアンブレカって呼び捨てにするかな〜。
そっか、商売をするにも資金がいるよね。
商業ギルドに相談したら、簡単にお店を借りれて商売できると思ってたよ。
よくよく考えたら、そんなわけないか。
「お金、貯めないとですね」
しばらく冒険者活動だな。
『Aプランは失敗した。Bプランに変更する』
「Bプラン?」
『冒険者ギルドへ行くぞ』
「あ、はい」
Bプランって?
西エリアの冒険者ギルドに到着。
ここでも交渉はレインさんだ。
「こんにちは。ご要件は」
ぺこり
『我が主は会話ができない。我が発する言葉は主の言葉。よろしく頼む』
「なるほど、わかりました」
『賭けの依頼を出したい』
「何かを賭ける依頼ですか?」
『そうだ』
「何と何を?」
『私の所有権と1000万エンで頼む』
「なるほど。それで賭けの方法は」
『決闘だ』
「決闘の条件をお願いします」
『10回の攻撃を受けて我が主が少しでも怪我でもしたら負けでいい。我と主は一切の攻撃はしない』
「わかりました。防御力にかなりの自身がおありですね」
『我の価値はいくらだと見積もる』
「それは、その防御力を確認しないことにはなんとも。しかし、会話ができるマジックアイテムですから、それだけでも1億エン以上の価値はあるかと」
『ふむ。ならば契約を進めてくれ』
「わかりました」
なんか、レインさんとお金を賭けた決闘をする流れになってるんですけど。
王都にある4つの冒険者ギルドに、会話ができるマジックアイテムと1000万エンを賭けた決闘の依頼書が張り出された。
冒険者ギルドに支払う依頼手数料は100万エン……
そんな大金、持ってないよ!
後払いでいいって。
でも、払わないとレインさんを没収するらしい。
一方的に10回の攻撃を受けて、私が少しでも怪我をしたら相手の勝ち。
レインさん、本当に大丈夫だよね?
そりゃあ、レインさんを信じたいけどさ。
「レインさん、本当に大丈夫?」
『心配するな。攻撃を10回受ければ終わる』
「だから、その10回が心配なんですけど」
なんなら1回でも心配だし。
『私の防御モードはこの世界で最強種のレッドドラゴンに10回の攻撃をされても何ともない』
「すごい! 試したの?」
『いや、なんとなくわかる』
「……」
いや、なんとなくって。
でも、レインさんがこれだけ自信満々なんだから本当に大丈夫なんだろうな。
あんなにすごく美味しい料理やスイーツを出してくれるレインさんがすごくないわけがない。
と、思いたい。
そう、ハイリスク・ハイリターンだよ。
これがうまくいけば、私は冒険者を引退して、ゆくゆくは引きこもり生活ができるんだもんね。
「あ、でも1000万エンでいいの?」
商業ギルドでは1億エンって言ってたけど。
『うむ。小さな店を借りてスタートだ』
「え?」
『小さな店から始めて、なんなら屋台から始めて大きな店にする。そんなサクセスストーリーが私は好きだ』
「はあ、さようで」
やるのは私なんですけど。
『楽しみだな』
「そうですね」
私はドキドキですよ。
しばらくして決闘の日程が決まった。
決闘の申し込みは10人を越えたらしい。
1000万エンを失ってもいいって人がそんなにいるんだね。
まあ、超レアマジックアイテムをお持ち帰りする気がまんまんなんでしょうけど。
抽選で相手に決まったのは、A級冒険者のカリウムさんだって。
攻撃魔法が得意らしい。
S級冒険者じゃなくて良かったよ。
『なんだ、A級か』
「ランクはA級でも攻撃魔法はS級かもですよ」
『ふっ』
ふっ、って。
結果、A級冒険者のカリウムさんは賭けに負けた。
私は怖くてずっと目を閉じて耳を塞いでいたから何もわからなかったけど。
私はこれまでの人生で最大の賭けに勝ったのだ。
900万エン、ありがとうございます。
恨まないでね。
私の命と900万エンを賭けたみたいなものだし、私の命ってそれくらいなの?
みたいに思ったけど、まあいいか。
大通りのお店は無理だったけど、少し裏通りにある小さなお店を借りることができた。
それでも毎月のお家賃は15万エン。1年分のお家賃180万エンを前払いだって。
途中で辞めても返金はなし。
……
火事を出したりお店を壊したりした時の保険に商業ギルドで加入。
これも1年分で180万エン。
これは掛け捨て。
……
商売をするってお金がかかるんだね。
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