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週末に宮園さん一家を招き入れるため、母は前日から料理の準備をして、当日も頭の天辺から足の爪先まで気を配った身だしなみをしていた。
俺はお見合いといえど自宅なのだから、スーツは堅苦しいと思い、無難にシャツとスラックスに着替えた。父も俺と大して変わらない格好だ。
インターホンが鳴り、母が嬉々として玄関に向かった。
「俺も出迎えに行った方がいいですか?」
ソファに腰掛ける父に耳打ちする。
「海斗の好きにしなさい」
穏やかに笑うだけ。
ソワソワと落ち着かないが、父の隣に腰掛けた。
出迎えに行けば、俺がすごく楽しみにしているように見られると思って。いや、楽しみじゃないわけではない。凪さんの写真を思い浮かべる。とても可愛らしい人だった。
でも、相手はΩで高校生だ。
何かの間違いがあってからでは遅い。絶対に断られなければならない。
母に案内され、宮園さん一家がリビングに入る。
凪さんと目が合い、時間が止まったように感じられた。瞬きも忘れ、凪さんから目が離せない。
はっきり言って、お見合い写真は盛ってなんぼだと思っていた。凪さんは写真よりも何倍も愛らしく、眩しかった。発光しているのかと思うほど。
見つめ合っていると凪さんがほんのり頬を染めてはにかんだ。
身体が勝手に動いたという経験は初めてだった。
凪さんの前で片膝をつき、右手を差し出す。
「水沢海斗と申します。結婚を前提にお付き合いをしてください」
目を瞬かせる凪さんを見て、ハッと我に帰る。自分の頬を思いっきりぶん殴った。
断られなければいけない相手に、無意識に求婚をしていた。
「あの、大丈夫ですか?」
凪さんが跪いて俺の頬に触れる。熱を帯びた頬に、少し冷えた手が心地よい。
あっ、……好き! 胸がギュンっと高鳴る。
これが運命の番? 運命の番なんて都市伝説だと思っていた。今までにない高揚に歓喜する。頭の中は全面お花畑で、天使が踊り狂っている。
心配そうに頬を触れてくれる手に擦り寄ると、凪さんがビクリと肩を跳ねさせた。
……やらかした、と思った。初めて会う8つも上の俺に、こんなことをされれば怖かっただろう。急いで顔を離す。
俺が謝罪するよりも早く、顔を真っ赤にした凪さんが、あの……、と口を開いた。
「宮園凪です。海斗さん、僕とお付き合いしてください」
自分に都合が良すぎる言葉が聞こえ、再び頬をぶん殴る。ジワリと痛みが広がった。……現実?!
「どうしてまた殴るんですか?!」
凪さんに頬を包まれ、至近距離にある愛らしい顔に吸い寄せられるよう近付けば、母に思いっきり頭頂部へ拳を振り下ろされた。
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