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凪さんは俺の服で巣作りをしようとしていたのか。でも匂いがしなくて、今着ている服を求められた。言葉にできないけれど、胸が熱くなる。凪さんが俺のことを考えながら巣を作ろうとしていた形跡に。
先にリビングに入った凪さんはソファの背もたれにジャケットを掛けた。
「海斗さん、もっとちょーだい」
シャツを引っ張られてそれも渡した。渡すとまたソファに置く。もっとちょーだい、と言われるがまま、肌着とスラックスもソファに置かれ、ボクサーパンツと靴下のみの情けない格好にされた。
「海斗さん、全部ちょーだい」
下着のウエスト部分に指を引っ掛けられて慌てて止める。
「下着と靴下はダメです。汚いですから」
「汚くない、欲しいの!」
手を押さえたまま、脱がしにかかろうとする凪さんをどうすれば止められるか必死に考えた。
「凪さん、俺をこのまま巣に連れて行ってくれませんか?」
「……分かった」
凪さんは頬を膨らませて渋々俺を服の乗るソファに座らせた。俺の足を跨いで凪さんがギュッとしがみついてくる。
ドギマギしながらも、ありがとうございます、と巣を作ってくれたことと巣に招いてくれたことにお礼を言うと、抱きつく腕に力が込められた。
「海斗さんの番にして。僕のこと噛んで」
少し身体が離れ、至近距離で見つめられる。甘い誘惑に心音は速くなり、大きく鳴り響く。
可愛らしいのに色香を纏った凪さんの誘いは刺激的過ぎた。
鼻から温かなものが垂れる。鼻の下を指で拭うと血液だった。……かっこ悪すぎる。迫られただけで鼻血を出すなんて。26年間恋人なしの弊害がここにきて出てしまった。耐性が無さすぎる。
凪さんの前ではカッコつけていたのに、これで台無しになってしまった。
「すみません、ティッシュを取らせてください」
俺から降りて凪さんがティッシュを取ってきてくれた。数枚引き抜いて、俺の鼻に当てる。
「汚れるから離してください」
「いいの、僕がやる。海斗さんの返事聞いてないよ。番にして」
「抑制剤を飲んでください」
凪さんの目が見開かれ、大粒の涙がこぼれた。
「あっ、違います。凪さんを拒否したわけではありません。今、ヒートで正常な判断ができていないかもしれません。だから、おさまってもそう思ってくれていたら教えて欲しいです。次のヒートの時に噛ませてください」
「僕は海斗さんが好きなのにダメなの?」
「俺も凪さんが好きです。大事だからこそ、ヒートでない時に話し合いをして決めたいです」
身に付けているのは下着と靴下のみだし、鼻をティッシュで押さえたままだから格好がつかないが、自分の気持ちをきちんと伝える。
凪さんはポケットから抑制剤を出して飲み込んだ。
なぜすぐに飲める状況なのに飲まなかったのだろうか。
再び俺の脚に乗り、ぴったりと引っ付いてきた。
「抱っこしたまま寝てもいい?」
「はい、もちろんです」
鼻血が止まったことを確認して、凪さんを抱っこしたまま立ち上がる。自分の部屋のベッドで横たわりながら抱き合った。
「凪さん、おやすみなさい」
小さく頷き、凪さんは瞳を閉じる。薬の副作用なのか、すぐに寝息が聞こえた。
俺は腕の中の凪さんをキツく抱きしめる。愛おしい子を抱きしめたまま眠れるわけもなく、目はバッチリ冴えていた。今日は長い夜を過ごすのだろう。
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