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 休日に部屋で本を読んでいると、両親に話がある、と呼ばれた。リビングのソファに腰掛けると、一枚の写真を見せられる。  まだ幼さの残る青年が気恥ずかしそうに頬を染めていた。 「この方は?」  正面に座る両親に問えば、母がにんまりと口の端を広げた。 「彼の名前は宮園凪さん。お父さんのお友達の子よ。そして海斗、貴方のお見合い相手」  くらりとして頭を押さえた。 「お見合いって、この子いくつですか?」 「18歳よ。もうすぐ高校を卒業するわ」 「高校生? 8つも下じゃないですか。そんな子に手なんて出せませんよ」 「当たり前よ! そんなことしたらぶん殴るわよ」  ドスを効かせ、母の目が鋭くなる。  お見合いをするということは、結婚を視野に入れているのではないのか? それならば当然そういうこともするはずだ。なぜ理不尽に怒られなければならないんだ。 「凪さんは高校を卒業したら、大学に進学するの。子供を作るのは大学を卒業してからしか許さないから」 「なぜこんなにも早くお見合いするのですか?」 「だって凪さん可愛いんですもの! 大学卒業まで待っていたら、別の人と結婚してしまうかもしれないわ」  ほら見て、と眼前に写真を突きつけられる。  艶々の黒髪に透明感のある肌。人懐っこそうな大きな目は長い睫毛に覆われている。赤い小さな唇とほんのり染まった頬が愛くるしい。  ……確かに可愛い。称賛の言葉ばかり出てくる。 「でも俺は仕事がとても楽しいので、恋愛なんてしている余裕はありません」 「そんなことばっかり言っているから、26年間恋人ができないのよ! 学生の頃は勉強が忙しい。社会に出たら仕事が楽しい。せっかく男前に産んだのに、その顔は飾り?」 「そんなことを言われても、恋愛するよりも本当に勉強や仕事の方が楽しくて」 「それは運命の番に会っていないからよ。きっと凪さんと出会うために、海斗は今まで草食系αだったに違いないわ」  草食系α……。  男女の性の他に、第二の性であるαβΩの3種類がある。運命の番というからには凪さんはΩなのだろう。  正直、俺はΩが怖かった。発情中のΩが近くにいるだけで、αは抵抗しきれない強烈な発情状態に陥るらしい。自分が自分でなくなり、暴力的な性衝動をΩにぶつけることが怖い。だからΩとは極力関わらないようにしてきた。 「一度会ってみないか? 凪くんはとっても優しい子だから。海斗と凪くんが合わなければ断ればいい」  今まで黙っていた父に言われ、分かりました、と頷いた。ヒートの時に会わなければ問題ないだろう。  父親の友達の子供というだけで、8つも上の俺とお見合いさせられる凪さんの方が辛いだろうし。 「早速、宮園さんに連絡するわね!」  心を躍らせながら母が電話をかけた。
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