喰らうひと

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 2人並んで飴をかじっていると、やがて神社の鳥居が見えてきた。 「あ、あそこ」  胡鶴が指を差す。  鳥居の下に、紫色の風呂敷包みが転がっていた。  本当にあった。そんな風に思っていると、もぞりと風呂敷が動き出したように見えた――が、違った。風呂敷包みの影から鼠が飛び出しただけだ。 「えっ、あ、なんだ、鼠か……」  言ってから、おかしいな、と首を傾げる。  あの鼠、大きくないか。小型犬くらいの大きさがある。それに、溶けたバターのような黄色をしていた。 「じ、じじ、次郎保、だ!」  走り出した永遠に驚いて、鼠は雑木林へと逃げ込む。舌を打った永遠は、素早く鳥居の下にあった風呂敷包みを回収した。 「次郎保って?」 「この町で子どもの指を味見して回っている性悪な化鼠だよ」  駆け寄った胡鶴の疑問に答えたのは、永遠ではなかった。彼の抱える風呂敷包みがほどかれて、中から男が顔だけを覗かせる。 「うわあ、生首!!」 「てて様〜!」 「父ちゃん生首なの!?」  驚いて飛び上がった胡鶴に、生首は軽快に笑って見せた。 「私は天城。永遠の父です」  静かな声で語りかけてくる生首を、胡鶴はまじまじと見た。  とても綺麗な顔立ちをしている。陶磁器のような白い肌に、鴉の羽のような黒い髪が良く映えた。 「親父さんも人間じゃないんだな」 「今はそうだね。でも、私たちは人間を傷つけたりはしないよ。むしろ、人間側からの依頼で仕事をしている」 「へええ、たとえば?」 「そうだな――」  口を開きかけた天城を、永遠が宙に放り投げた。そのまま突進してきたので、驚いた胡鶴は思わず目を瞑る。耳元で「グギャアッ」と短い悲鳴が聞こえて瞼を持ち上げると、すぐ近くに黄色い鼠の口があった。 「――人の味を覚えたドブ鼠を捕まえてくれ、とかかな」  今にも噛みつかんと口を広げた鼠の首を捕まえた永遠が、落ちてきた天城を片手でキャッチする。 「鼠はつねに食べ続けなければ、死んでしまう程の貪食だ。永遠に驚いて逃げたが、君があんまりに美味しそうで我慢できなかったんだろう」  ポカンと口を開けた胡鶴に、永遠はにんまりとした笑みを浮かべた。 「あっ」  その大きな口がぱかりと開いて、悶える鼠を丸呑みにする。止める間もなく飲み下した永遠は、ふう、とお腹を擦った。 「永遠は良く食べるからね。この通り、人に仇なすおばけを食べて回っているんだ」  ぐう、と食べたばかりの癖に腹を鳴らす永遠に、天城はけらけらと笑った。 「お腹がすいたのかい?」 「うん、もっとたべたい」 「そうかそうか、なら次の仕事にかかるとしよう」  穏やかに微笑む男の生首に、赤目の青年は幼子のように擦りよった。 「君も、早くお家に帰りなさい」 「てて様のこと、探してくれて、あ、ありがとう」  手を振る2人に、呆然としていた胡鶴は慌てて「またな」と手を振りかえした。   「喰人に会ったァ!?」 「おう」  翌朝、ランドセルを揺らしながら、胡鶴は得意気に昨日起こった出来事を、透真と凌の2人に聞かせた。 「ずるい。鶴ちゃん1人で冒険して」 「オレは別に会いたくないからいいけど……どんなやつだった?」  置いていかれたことが不服な凌の隣で、透真は眉間に皺を寄せる。怖いと思う気持ちと、好奇心がせめぎ合っているのだ。 「うーん……」  胡鶴は首を捻った。 「お父さんっ子な、腹ペコヒーローって感じ」 「なんだそりゃ」  透真はあきれた声をあげたが、胡鶴にとっては1番しっくりくる表現だった。  青年と生首という組み合わせだったが、再会した2人はちゃんと親子に見えたし、喰人である永遠はお腹を空かせた子どものようにしか見えなかった。  何より、助けてくれた彼の姿は、とても格好良くかったから。
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