5話 大学での出会い、アルバイトでの出会い

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 ゴールデンウイークが過ぎてから二週間、大学の講義も本格的に始まった。高校の時とは違って必修科目以外は受けたい講義を自分で選ぶやり方が、自己責任でやりなさいと大人扱いされたようで妙に嬉しかった。先輩の知り合いがいる人は単位を取りやすい講義を選んだり、逆に厳しい教授を避けたりしているようだったが、地方出身の僕には知人などいるはずもなく自分で選ぶ他なかった。それでも先入観なく興味が向いて選んだ講義の中には人気薄でも話の面白いものもあって、単位のために講義を選ぶのも善し悪しだと感じている。  卒業までに必要な単位を考えると、ある程度余裕のある時間割にもできるのだが、一年目ということもあって多めに講義を選んでいた。そのため毎日講義を入れてしまった僕は、自身の生活に精一杯で気が付けばサークルに入る機会を逃してしまっていた。特別人見知りというわけではないけれど、すでに出来上がったグループの中に入っていく度胸のない僕は大学に来ても一人で長机の端に陣取って講義を受ける毎日だった。  そんなある日。民俗学の講義を受けに教室に入り、いつものように端の席に座って授業の開始を待っていた僕に近づいてくる人がいた。 「こんにちは。隣いい?」 「ええ、どうぞ」  急な展開に驚いていた僕だったが、どうやら彼も一人で講義を受けていたようで、話しかけやすそうな僕を見つけて声をかけてくれたらしい。挨拶を交わして、少し話そうかと思った矢先に教授が入ってきたので、僕たちは一旦教壇の方へと集中したのだった。  そして講義が終わると、彼は「折角だから、お昼でも食べない?」と僕を誘ってきた。僕も知り合いになるチャンスだと思ったので、是非と頷き二人で学食へと向かった。  別棟にある学食は田舎の出である僕には敷居の高いおしゃれ感で初めのうちは利用を躊躇していたのだが、一度入ると料理の種類も豊富で安いため良く使うようになっていた。  僕たちはそれぞれ食べたい物を注文して受け取り口に並んだ。お昼には少し早めの時間だったから食堂のテーブルはまだ空いていたが、カフェ代わりに利用する学生もいたりして、高校とは違うなあなんて思いながら料理ができるのを待った。程なくして順番が来て僕は日替わり定食を、彼はカツカレーを受け取り空いている席に向かい合って座った。僕たちは昼飯を食べながら色々と話をした。彼は梶原祐(ゆう)という名前で、聞くと同じ東北の出身だと分かって盛り上がり僕らはすぐに打ち解けた。また彼は親戚の家に居候しながら通っているそうで、一人暮らしをしている僕をうらやんでいた。  梶原くんは物怖じしない性格だからかすでに多くの友人が出来たらしい。どうやら今回はたまたま知り合いのいない講義だったらしく、他の講義では一緒に受ける友人がいるそうだ。 「野村くんと同じ講義の時はまた一緒に座ってもいいかい?」  お昼を食べ終わった後、別れる際に梶原くんが屈託のない笑顔で聞いてきたので、僕は「いいよ」と了承して席を立った。そしてこの後はどうするのか聞くと、 「今日はあの民俗学だけだから、もう帰るよ」 と言って彼は肩にバッグを掲げて学食を出ていった。ちょっと強引だけど明るい彼に、なんか振り回されそうだなあと思いつつも無意識に口元が緩んでいる僕だった。
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