5話 大学での出会い、アルバイトでの出会い

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 そして六月に入るころ、僕はアルバイトを始めていた。一応、大学生活の間は両親から仕送りをしてもらうことになっているのだが、これはあくまで学生生活の資金だ。折角の一人暮らしだからこの機会に色々とやってみたいと思っていた僕は、夕方からのアルバイトをして軍資金を貯めておこうと思ったのだった。  希望としては賄い付きの飲食店か趣味の読書に合わせての本屋、且つアパートから近いか通学の路線上にある駅近辺と考えていた。そして緊張とともに最初に応募した最寄り駅の傍にある大野書店であっさりと採用されたのだった。  初めは先輩に教わりながら一緒にレジに入っていた。想像していた仕事とは全然違っていて、レジの仕事はただバーコードを読んでお支払いしてもらうだけではない。紙製のカバーは書籍の大きさに合わせて自分たちで折って準備するし、定期購読をされているお客様には電話して入荷のお知らせをしなければならない。またお客様からの問い合わせにも対応しなければならないし、プレゼント用の包装もしないといけない。  レジだけでも色々と覚えないといけないことが多くて、正直びっくりした。でも先輩方は少しずつ順番に教えてくれたし、僕も早く慣れようとメモをとって頑張った。それに書店で働くのは憧れていたし、働いている人は皆本が好きな人ばかりなので居心地がよく、仕事だけどとても楽しかった。  大野書店で働いてから僕の読書の幅は大きく広がっていた。特にバイトで仲良くなった内田沙耶先輩の影響が大きい。彼女はすごい読書家で、僕らは好きな作家さんの話をしたり、お薦めの本を貸し借りするようになった。  僕は今まで小説を主に読んでいたのだが、彼女は歴史物や理系の解説、自己啓発や心理学、ビジネス書に経済関係、さらには絵本に詩集にコミックにと、とにかく興味がでたものは何でも読んでいるらしい。 「せっかく本屋で働いているんだから、小説だけ読むんじゃもったいないよ」  何度目かの雑談の中で好きな本の話をした際に、内田先輩はそう言って僕の読んでいるジャンルとはまったく違う本をいくつか僕に教えてくれたのだ。その時に教えてもらった本のいくつかは後日彼女が自分のものをバイト先に持ってきてくれたので、僕は好意に甘えて借りて帰った。食わず嫌いだった本や見向きもしなかった本たちは思いの外に面白く、僕の世界は確かに広がっていた。内田先輩にその感動を伝えると、彼女は自分のことのようにすごく喜んでくれた。その時の先輩の笑顔はとても眩しく可愛く思えた。  それからは職場の大野書店以外でも、本屋に行って棚を眺めるのがもっと楽しくなった。そして僕の読む量はもちろん、アパートの部屋にある本棚には様々なジャンルの書籍が益々増えていくのだった。 第5話  完
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