2 出撃

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2 出撃

「気が進まねえな」アーミテイジが誰にでもなくぽつりとつぶやいた。「なんでオメガと協力して調査しねえんだ?」  誰も答えなかった。全員が輸送シャトルの貨物室で膝を抱えて座っており、顔を上げようともしない。これから敵味方が入り混じってドンパチをやらかしている〈幽霊船〉へ増援部隊として送られるのだ。誰だってナーバスになる。 「おじいちゃんが言ってたよ」見かねたのか、アビゲイルが受けた。「昔オメガからなんの通告もなしに略奪隊がやってきて、ずいぶん殺されたんだって」 「その理由は」聞いてみた。初耳だった。 「知らない。あいつらが人非人だからじゃない」 「その襲撃がある前には、たぶんうちが略奪隊をオメガへ派遣した過去があるんじゃねえのか。なんてったって物資はいつでも不足してる」  アーミテイジは肩をすくめて嘆息を漏らした。  アルファもオメガも全長10キロメートルを超える規格外の恒星船ではある。内部を層状に区切ることにより表面積を増やし、人びとは惑星上と同レベルの生活を営んでいて、何世代もの人間が生まれては死んでいく。一つの町を丸ごと運んでいるようなものだ。 「いずれにしても真相は闇のなかね」アビゲイルはカールした金髪をいじっている。「どっちのコロニーも思想教育で子どもたちを洗脳してるんだから」 「ひとつだけ確かなことがあるな」  いっせいに兵員たちの視線がわたしに集中する。 「俺たちはいつも腹を空かせてて、敵さんたちもそうだってことさ」  閉鎖系のシステムはいつか必ず破綻する。植物を育てるにしても、収穫のたびに土地は痩せていく。酸素の再利用を徹底しても徐々に空気は淀んでいく。尿からアンモニアを除去しても再利用水の味は落ちる。  そしてもちろん、食料は枯渇する。 「〈幽霊船〉を奪取すれば当面の飯にゃ困らない。ついでに核融合エンジンが生きてりゃまるごとかっぱらって中性子星ともおさらば、か」アーミテイジは鼻を鳴らした。「やっぱり気に食わねえな」
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