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けれど―――
俯いていた顔を上げた時、見えた笑顔に呆然となった。
「本当は今日ね、学校に来ないつもりだったの。
へへ、だって泣いちゃうもん。毎年そう、1日中ずっと泣いてる」
透き通った声が僕の心の内を侵食していく。
「だけど昨日、ハルくんが『明日は晴れ』だなんて言うから……来てみた」
「うん……ごめ―――」
「楽しかった!」
「……え」
開いた口が塞がらない、とはこのこと。
僕の謝罪を掻き消すように、明るい声色が重なった。驚愕して思わず放心する僕へ、今日一美麗な満開の笑みが視界いっぱいを占めた。
「独りでいる方がよっぽど辛かったんだね」と何処か遠く、過去の記憶を噛み締めるように、その血色の良い唇から言葉が紡がれる。
「私の心は今、晴れだよ。
……だから、ハルくんのエイプリルフールは失敗」
彼女の口角が悪戯に上がって八重歯が覗く。
「ありがとう」
ふ、と1本の糸が緩んだように今度は二重幅の広い目が弧を描いた。千変万化する表情。一体今日だけで何回新しい彼女に出会ったのだろう。
『魔法みたいだった』
最後に、彼女から言われた言葉。東坂さんは僕を「魔法使い」と称すけど、きっと違う。
君の笑顔こそが何時も僕の心を優しく照らしてくれるのだ。それこそ、魔法みたいに。その恩返しを出来たのなら本望だ。
僕は、今日の日を一生忘れない。
柔らかな雨が、髪を肩を濡らしていく。でもその空が僕には、晴れ渡る奇跡に見えた。
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