3月31日 曇り

1/2
前へ
/13ページ
次へ

3月31日 曇り

* 僕・西ヶ谷(にしがや)希晴(きはる)は、普通の高校生だ。 否、正確に言うと僕はかなり存在感の薄い人間である。昔からそうだった。 高校デビューだなんだと言い、周りが派手な身なりをするようになっても相も変わらず黒髪・眼鏡を貫いており、教室では大抵一人で読書。 友だちはいるが、特に一緒に行動したり遊んだりするわけでもなく。皆んなが言うところの、所謂「隠キャ」というやつになるのだろうか。 ―――まあ。 僕はそんな肩書き、どうだっていいが。 群れるよりも1人でいた方が楽だ。人前に立つのも得意じゃないし。どうでもいいような些細な事で、誰かと一緒に寄って集って騒ぎ立てるのも……あまり好きじゃないから。 良く言えば、それなりにゆるゆる伸び伸びと高校生活を満喫していた(「クラスの仲間と仲良くしなさい」なんてクサい事言う先生もいないしね)。 そして毎日をずるずると過ごすうちに、いつの間にか次のステップへと上る季節が目前に迫ってきている。 つまり、僕はもうすぐ高校2年生になるのだ。 「え、ハルくん? どうしたの、急に」 千思万考する僕の正面で1人の女の子が首を傾けた。その仕草に伴い、肩から綺麗な長髪がさらさらと零れ落ちる。 少しの戸惑いが含まれた瞳と垂れ下がった眉に、やはり彼女には笑顔の方が似合うな、ということを再認識させられた。 『明日、晴れるんだってさ』 ―――数秒前。 そんな意味不明なことを言って、彼女をこんな表情(かお)にさせたのは紛れもなく僕自身だというのに。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加