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小学の時も中学の時も、東坂さんと友だちだった人たちは、彼女が泣いていたことをきっと知らない。今の高校の奴らだって、僕以外は知らない。
あの日から3年間、僕らはずっと図書室で昼休みを過ごした。特に何か喋ったり遊んだりすることはない。
僕はひたすら本のページを捲る。
東坂さんはひたすら涙で頬を濡らす。
それだけの関係だ。
僕は好きなだけ彼女に泣かせてあげたかったから、彼女が話し掛けてこない限りは口を開かなかった。いつも教室では笑顔を振り撒いて心に雨を降らす彼女へ、少しでも心の哀しさを晴らしてほしかったのだ。
そして、泣き顔を他人に見せたくないらしい彼女のために、僕はお得意の魔法で自らの存在を消した。いつの間にか読書のBGMは、東坂さんの綺麗な涙の歌になっていた。
けれど特別な時間は永遠じゃない。6年生になると、僕たちはすっかり疎遠になっていった。大きな原因は、東坂さんが児童会への加入を決めたからだ。
中学は一度も同じクラスにならなかった。
東坂さんの中で僕はどういう立ち位置にあるのだろうか。きっと小・中・高と同じ学校なだけの、唯の他人だろう。僕だってきっと……似たような認識だったはず。
そして今、高校で久々に同じクラスになった。
あの頃と変わらない笑顔。溢れ出すきらきらしたオーラが、瞬く間に沢山の人を魅了する。気付けばやはり、人気者になっていた。
僕はそんな彼女を遠くから眺めている。
時折見せる空元気に胸を痛めながら。たまにすれ違えば、教室に居る時と同じ笑顔で話しかけてくれる彼女に、また心臓の奥深くを痛めた。
―――ねえ。君の心はまだ土砂降りの雨?
―――まだ、一人で泣いているの?
彼女を視界へ入れる度、幾つもの言葉が頭の中を駆け巡った。ハテナばかりが飛び交う言葉たち。どれも、本心を見せてくれない彼女への問いかけだ。
―――その心を……僕が晴れにすることはできない?
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