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 お盆前に見た夢。  私は今よりも若い年齢の設定だ。  場所は実家の設定だが、現実の実家とは全く異なる家だった。  家の敷地内の端にぽつんと置かれた、汲み取り式便所に入っている所から夢は始まる。    便所の扉は薄い木の板で出来ており、所々小さな隙間がある。  便所は洋式で、扉の方を向いて便座に腰を下ろすスタイルになる。 扉の隙間はまあまあ大きく、隙間の穴から5歳くらいの男の子と父親が便所に向かって歩いてくるのが見えた。 男の子は、私の入る便所を指さし、父親に尋ねた。 「これはなあに?」 「これは昔のトイレだよ」 「へぇ、ここ、穴が空いてるよ?」  男の子は扉の隙間を覗こうとする。  私は便所の中で慌てて用を済ませ、覗き込む子供と目線の高さを合わせ「覗いたらダメだ!」と叱った。  ドスの効いた声で叱りつけたつもりだったが、男の子は「別にいいじゃない!」と邪悪な顔で笑う。  そしてそばに居た、太った男性にも「ねえ」と訴えかけ、その男性も「別に大したことじゃない」という。  けれども用を足している時に覗かれたと説明すると、「それはだめだな」と太った男性はコロリと意見を変えた。  男の子の登場はそこまでとなり、急に煙のように姿を消した。 ○○  場所は実家から本家にかわり、今度はおじさんとおばさんが出てきた。  ちなみにこの家も、現実の本家の家とは全く異なる家だった。  皆は本家の二階にいた。畳敷きの大広間に、ご馳走が乗った長机が何列も並んでいる。  広間には、死者も生者も関係なく、皆羽織袴を着て集まっていた。  私もさり気なく、親族が集まる席に座る。  あ、あそこにいるのはおととし亡くなったおじさんだ。あれ、あそこのは去年死んだおじさん。そんな風に親族の顔を確認していく。  皆、楽しそうにしていた。  ふと机の上を見ると料理の中に、マグロの大きなぶつ切りがある。きっとお造りだろうが、それにしても切り身が大きく、ブロックのよう。  マグロも不格好だったが、ツマとして添えられた、ざく切りのキャベツも不格好だ。マグロは冷凍だったのか、既にピンク色のドリップが出ている。  私はマグロのドリップが染みたキャベツをどうしても食べたくなり、ひとかけらを指でつまみあげた。 「おばさん、このキャベツ食べていい?」  それまで笑顔だったおばさんが、私の持つキャベツに、怪訝そうに顔を歪めた。 「あら、だめよ。まだお客様の中でも、食べてない人がいるのよ? あんたは、まだ食べちゃだめ」    もう触ってしまったし、おばさんにバレないように食べたらいいんじゃないか?  既につまんでしまったキャベツを見て、私は悩んだ。  魚のドリップが染みたキャベツは、正直言って不味そうだ。けれども私はどうしても食べたくて、悩むふりをしながら、少しづつ口元に近づけていた。  おばさんは亡くなっただんなさんと楽しそうに話している。今なら誰にも気付かれない。  今だ。  笑うふりをして大きく開けた口にキャベツを入れようとした時。  私の肩口から、真っ白な犬がヌッと顔を出した。その犬は昔、我が家で飼っていたアニーだった。 「あら、あなたキャベツ食べたいの? あなたなら食べていいわよ」  おばさんがアニーに言う。アニーは嬉しそうに私にシッポを振り、私がつまんでいたキャベツを食べた。  アニーなら仕方ない。いつも私を守ってくれていたし、大好きな友達だ。  本当のアニーは、小型犬のビション・フリーゼだったのだが、夢の中のアニーは、大型犬のボルゾイになっていた。けれども全身真っ白な所は、変わっていない。  アニーがキャベツを食べてしまうと、あれほど食べたいと思っていた欲が消えていた。    冷静になった私は、改めて宴の様子を眺めて気付いた。ひょっとして、ここの料理を食べていいのは、久しぶりに集まった死者たちなのかも、と。
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