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35
不思議な設定の夢。まあいつも不思議だけど。
私は三十代前半の男性。寺のような場所に居候をしていた。
ある日、私を訪ね女性が来た。
その女性は、私が大嫌いだった2人の人物が合体した姿だった。
彼女は私が嫌っていたことなど知らないのか、「双子の娘が通う幼稚園で劇をやるから、是非あなたも参加して欲しい」という。
劇はハムレットのはずだが、登場人物の名が難しい。私が、女性にも、ハムレットの台本にも戸惑っていると、彼女は父兄仲間の「スミスさん」という女性を紹介してきた。
スミスさんは重い冊子を抱え、和室に持ち込んだホワイトボードでハムレットの講釈をし始める。一番難しい登場人物の名がツッェツェリオ・○○○○○・****みたいな名前。古代ローマの人物名のような、長い名前だった。
とりあえず話を聞いていたが、実は私には使命があり、(こんな話を聞いている場合では無いのに)と焦っていた。
私はそわそわと部屋の外を気にしていた。
この部屋は外側に縁側がぐるりと続く。
換気目的で縁側のガラス戸は開けていたのだが、気付くとスミスさんの座る右後方の縁側に、横たわる男性の足がある。
その足は私が見覚えのある人物だった。私が“先生”と崇めるお坊様だったのだ。
「先生!」
私は立ち上がり、縁側で横たわる先生の元へ行こうとした。
しかし先生の体は宙に浮き、スーッと移動していくではないか。
先生の姿は私しか見えないらしい。
私は嗚咽を漏らしながら、縁側を這うようにして先生の後を追った。
先生の体は奥の使用していない部屋に入ったので、私もその部屋に入る。
先生は霊体の姿で、部屋の中央に鎮座していた。
私は会えた喜びから、先生、先生、と喉から声を絞り出し、畳に擦り付けるように深く頭を下げ土下座していた。
先生は懐から何かを取りだした。タンスの形をした小箱のようだった。手のひらに乗る小箱は、小さいながらもしっかりした作りで、赤の漆が塗られているようだった。
「先生、これは……?」
私の問いかけに先生は「これは○○で、」と、説明してくれたが、内容を覚えていない。とりあえず大事に管理するように、と言われたような気がする。
しばらくして、私が置き去りにした女性がこちらにきた。私が嫌う女性は、図々しくも部屋に入り、あろう事か今しがた先生が出された小箱を、座る際に膝で転がした。
「なんてことするんだ! 勝手にそこに座るだなんて! 先生がそこに居らっしゃるんだぞ!」
私は激しく叱ったが、彼女には先生の姿が見えていない。
先生は霊体なので、多少体が誰かと重なっても気にしないようで、すました顔で座っている。
先生は○○、と私の名を静かに呼ぶ。
「はい、先生」と私が応えると、先生は「ここは俗世と遮断された空間か?」と聞いた。
「はい、ここには電気機器も持ち込んでいませんし、世間に気付かれません」
「うむ。出来れば、世間に居場所が分からないようにしたい。だが、近ごろでは至る所に監視の目がある」
そう言って先生は私の後ろに視線を向けた。先生の視線に促され振り向くと、そこにはスマホをこちらに向ける男性が立っている。動画を撮っているようだった。
「貴様やめろ! どこから来た!」
「や、ねーちゃんがこっち行ったから、何かあるのかと思って」
その男は、どうやら私が嫌いな女性の弟らしい。兄弟揃って嫌な奴だな、と私は思う。
男に動画撮影を辞めさせると、今度は小さな女の子が2人かけてきた。2人そっくりな顔をしている。
「「ねぇねぇ何やってるの?」」
同時に尋ねる所はさすが双子。可愛らしいが、急に人が増えて、私は戸惑っていた。
先生はそんな事は気にならなかったらしく、双子に微笑んでいる。
「おじちゃんだぁれー?」
双子は先生を見つめて聞いた。
「お嬢ちゃんたちは、先生の姿が見えるのか?」
「うん、見えるよ」
やはり子供には見えるのか。しかし、途中から、子供たちが手で顔を隠し怯え始めた。先生を見ていた時は平気だったが、怯えているのは、どうやら赤い小箱のようだ。
怖い、怖い、と怯えている。
そんな怯えを察知したのか、向かいのビルの窓から、2匹の鬼がこちらの様子を探っている。
「落ち着きなさい。心の中で“お母さん”を強く念じなさい。もしくは、お母さんでなくてもいい。君たちが、この人なら助けてくれる、と思う女の人を、心に強く念じなさい」
先生が双子に語りかけている所に、スミスさんが縁側を這ってやってきた。
双子はスミスさんに気付くと、慌てて抱きつき、スミスさんは(なんのことやら)といった風の顔をした。
「親というものは常に子を守る。特に母親の守りの力は強い。危機に陥ったとき、とっさに母を呼ぶ事はそういう事なのだ」
先生は静かにお話された。
***
ここで、ツレが洗濯物を干してくれている音で目が覚めた。
先生……初めてお会いした方でしたが、どなただったんでしょうか?
ついでにスミスさんと、盗撮男も双子も、知らない人でした。
でも顔はよく覚えてる。
スミスさんはかなり歳の多い女性でした。レンズの上半分がうっすら水色の大きなメガネをしていて、髪の毛はボリュームがあるパーマでした。服装はわりと派手目の人。
盗撮男はアロハシャツに短パンだった。髪の毛は長めのもじゃもじゃで、あごひげを生やしていた。ちょっと口が前に出てる。
双子ちゃんは天然パーマのフワフワの長い髪。お揃いの服をきていた。パッチリした目が可愛かった。たまに体が重なって1人になっていた。
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