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知らない世界の夢。 大きなターミナルに、一人でいた。 周りを忙しなく見渡しているから、誰かを探しているようだった。 たくさんの通行人。土産物屋にはその地の銘菓が並んでいる。一番の名物は黒饅頭らしい。のぼり旗がかけられ、箱売りとは別にその場で摘んで食べられる一個売りもある。 黒饅頭は、名前の通り真っ黒だ。けれどもよく見ると、半透明の皮の中で何かがぐねぐねと動いている。 なんだか気持ち悪いな。売れてるのか? そんな事を思っていると、一つ目の全身緑色の生物が、黒饅頭を一つ購入した。トングのような二本指で、緑色の生物が出来たての黒饅頭を受け取る。 黒饅頭が激しく動くが、緑色の生物は大きな口をあけて、ぱくりと一口で食べてしまった。 ……まあ、美味しいのかな。 それから私はスマホを取り出してメッセージを打つ。 ──今どこにいる? 私のメッセージに、返事がくる。 ──路上ライブやってる所。お父さんの所から見える? スマホから顔を上げると、数メートル先でアコースティックギターをかき鳴らす若者が見えた。 ああ、あそこか。 近くまで来ると、演奏者の目の前、最前列に妻と子供たちが座っていた。 いつから見ていたのか分からないが、妻と子供たちは横入りしてるようだ。なぜなら観客はここまで、と引かれた線の内側で演奏を見ている。そして妻たちの後ろの観客が、妻と子供たちを睨みつけている。 ああ、申し訳ない。 妻たちは私に気付いていない。ここで声を掛けるのも気が引けて、私は大きな柱の横で路上ライブが終わるのを待っていた。 路上ライブは盛り上がっていて、観客はどんどん増えている。 気付けば、私の隣にも人が来ていた。随分派手な女性だ。フランスのブルボン王朝時代の装いのような、白のレースをふんだんにあしらったピンクのドレスを着て、白い羽の扇子で口元を隠している。髪型もマリーアントワネットみたいな派手な盛り髪に、羽飾りが付いている。 私の視線に気付いた女性が、私をギョロリと大きな目で見つめる。咄嗟に視線をずらした私に、女性は思いもよらない発言をした。 「……あら。あなたも?」 「はい?」 「あなたも吸血鬼なのね」 え? 吸血鬼? 何を言っているのだ?  口元を隠していた扇子を外し、微笑みかけた女性の口元に、私は驚いて凝視した。 うまく説明出来るか分からないが、幼い頃、櫛切りのオレンジの皮を唇と歯茎の間にはめて遊んだ経験があるだろうか。 派手な女性が笑うと、歯が見えるはずの場所には、宝石のついたジュエリーがはまっている。 蔦模様のような細工のされたシルバーのジュエリーの中央には、ドレスと合わせたようなピンク色の石がはめ込まれ、その石の両隣にはカラーレスの石がはめ込まれている。 指輪やブローチなら見た事があるが、口に付けるジュエリーは初めて見る。 驚きのあまりずっと見ていると、女性は「あなただって付けてるじゃない」とやや怒り気味に言う。 そう言われて口元に手をやると、確かに私の口元にも金属製のものがはめ込まれているではないか。 下の左右の糸切り歯に小さなリングを引っ掛けるようにはめ込み、歯が見えないようにしているようだ。 あれ、私は吸血鬼だったのか。 口元を触りながらそう思っていると、女性はまた口元を扇子で隠しながら「失礼しちゃうわよね」と言う。 「いくら私たちが吸血鬼でも、無差別に襲うことなんてしないのにね。いくら怖いからってコレを付けないと罰せられるだなんて、私たちの尊厳を無視する行為だと思うわ」 女性の話を聞いているうちに、自分が吸血鬼だった事を思い出した私は(そうか……そうだよな)と彼女の言い分に納得した。 それでは、と女性が離れていく。路上ライブももうすぐ終わりそうな雰囲気だった。 *** 突然の吸血鬼設定にビックリしました。 歯にはめて口元を隠すアクセサリーって、実際あるのかな? 初めてみる形だったんだけど。
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