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0 約束
夏休み最終日。
俺は、隣の家に住むおじいちゃんの家で、同い年の遥と一緒に宿題をこなしていた。
おじいちゃんって呼んでるけど、俺のおじいちゃんじゃない、遥のおじいちゃんだ。
遥の日記を見ながら、自分の日記を埋めていく。
「こうして見ると、俺たちほとんど毎日会ってんな」
「そうだね。夏輝と遊んだことばっかり、日記に書いちゃった」
一緒にゲームをしたこと、スイカを食べたこと、お昼寝したこと、テレビを見たこと。
何でもない毎日が、遥の日記には細かく書かれてた。
あたり前の毎日過ぎて、俺はどう書けばいいのかわからなったけど、遥は日記を書くのが好きなのかもしれない。
「実は、夏輝に言わなきゃいけないことがあるんだけど」
「なに」
俺は日記に目を向けたまま、聞き返す。
すると遥は、思いがけないことを口にした。
「ここに来るのは、今日で最後。今年の冬休みは、もう来ないんだよね」
「……え?」
すぐには理解できなくて、ゆっくり顔をあげると、遥は俺の向かい側でうつむいていた。
「……なんで? 毎年来てたじゃん」
はじめて遥と会ったのは、小学1年の夏休み。
家の都合で、夏休みと冬休みは、おじいちゃんの家で面倒を見ているんだとか。
5年のいままで、遥が来ない日はなかった。
はじめはたまに遊ぶくらいだったけど、次第に打ち解けて、ほとんど毎日、遊ぶようになったっけ。
なんとなく、ずっと続くと思ってた。
「1人で、留守番できるようになったから?」
「そういうんじゃないよ。そういう理由なら、いまだって留守番できる。おじいちゃん、うちの近所に引っ越すんだって」
別に、一生会えなくなるわけじゃない。
頭ではそう思うのに、目の前の遥がずっとうつむいてて、声も少し震えているような気がして、心臓がバクバクした。
「バイバイだね」
そう言いながら顔をあげた遥の笑顔が、作り物だってことはすぐにわかった。
遥はそんな風に笑うやつじゃない。
楽しいときは、もっと本当に楽しそうに笑う。
「バイバイなんて言うな」
「……うん。でも」
同じ県内だって聞いてるけど、俺はまだ1人で電車に乗ったこともないし、これまでみたいに会うのが難しいことは理解してる。
だけど、これで終わりになんてしたくない。
だって俺は、遥のこと――
「好き……だから。俺は遥と、もっと一緒にいたい」
気づくと、言うつもりもなかった言葉を口にしていた。
ずっと、心の奥で思っていたのかもしれないけど、よくわからなかったし、たぶん、わざわざ伝える必要もないと思ってた。
けど、会えないなんて言われたら、引きとめなくちゃならない気がして。
「それって、どういう意味……?」
「ちゃ、ちゃんとした意味だ。適当な……好きじゃなくて……」
遥が、視線を逸らすみたいに少しうつむく。
困らせてしまったかもしれない。
「……卒業したら、流星中学に行く予定なんだけど」
遥は、少しうつむいたまま、ゆっくり口を開いた。
「流星って……私立の進学校だっけ?」
「うん。もし、夏輝も来てくれるなら……家は遠いかもしれないけど、学校でいつでも会えるね」
もう一度、顔をあげてくれた遥は、笑顔を浮かべていた。
本当の笑顔だ。
まるで、好きの返事をもらえた気がした。
「行くよ。行ってみせる」
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