3 おつかい

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3 おつかい

 それから数日、何人かの女子が遥を誘った。  そのたびに断るもんだから、女子としても断られるのが当たり前で、逆に声をかけやすくなってるみたい。  とりあえず一度、チャレンジしてみようか、なんて考えてるんだろう。  クラスメイトじゃない女子も、何人か来てたっけ。 「……これだけたくさん声かけられてたら、1人くらい、一緒に食べてみようって思う女子、いない?」  今日もまた、遥に断られた女子が帰った隙に聞いてみる。 「いないよ」 「みんな平等に扱いたいとか」 「妙な期待させるのもよくないでしょ」  そっけないのも、遥なりの優しさか。 「それで、今日の昼はどうする?」  俺が尋ねると、遥は少し考えた素振りを見せた後、タブレットでドーナツの画像を見せてきた。 「これ、購買部で売ってるんだって」 「遥、好きそうだな」 「買ってきてくれる?」  そういうことか。 「言うこと聞いてくれないと……変なことしゃべっちゃうかも」  企むような笑みを見せられて、あのことを思い出す。 「そもそも断る気ないし。行くよ」  2人で一緒に行くほどのことでもない。  おつかいしてくるとしよう。  購買部に来るのは、今日で2度目。  入学式の後、遥と場所を確認しにきたけれど、その日は開いていなかった。  今日は、何人もの人が押し寄せていて、すごい熱気だ。  ドーナツは見当たらない。 「あ、あの……ドーナツって、ありますか?」  近くの店員らしきお兄さんに聞いてみる。 「ドーナツは人気で、いつもすぐなくなっちゃうんだよねぇ。ちょっと前に売切れちゃったよ」 「マジか……。どうしよっかな」 「甘いのが好きなら、そっちにいろいろあるからね」  そう教えてくれた方向には、ワッフルや、チョココロネ。  たぶんだけど、遥が好きそうなパンが置いてあった。 「ありがとうございます」  今日しか購買部に来ないわけじゃない。  また今度の楽しみにして、ひとまず、適当に甘そうなパンをいくつか買って戻ることにした。  教室に戻ると、遥はペットボトルのお茶を2本用意して待ってくれていた。 「それ、俺の分のお茶?」 「自販機くらいは、行けるからね」 「遥に頼まれたドーナツなんだけど、売切れちゃっててさ」 「そっかぁ。ドーナツ、なかったんだ……」  がっかりさせてしまったけど、こればっかりはしょうがない。 「明日は、昼休みになったらすぐ購買部行ってくるよ」 「今日は、なに買ってきてくれた?」 「ワッフルとチョココロネ。それにプリン」 「いいね」  どうやらプリンが気に入ったらしい。  食堂だと、女子が近くに座ってきたりするけど、教室内では、だいたいみんな自分の席か、友達の席にいて、そのおかげか男子で固まっていた。  女子がいると、どうしても、俺が邪魔ものみたいで申し訳ない気持ちになってくるし、こっちの方が、気が楽かもしれない。  自分のイスを遥の席に寄せて、一緒にパンをかじる。  そんな俺たちの様子を誰かが見ていたなんて、そのときは、気づいていなかった。
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