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 塔の上に住む人間と聞けば、名のある資産家や鐘つきの修道士を考えるだろう。  けれどもこの男は違う。  貧しい家に生まれて、幼い頃に親に捨てられてから、湿っぽい裏路地でネズミとともに残飯をあさって生きてきた。    やがて「下」の住人たちに煙たがられて桶いっぱいの汚水をかけられるようになると、男はもっと良い場所を目指して「上」へ登りだした。  そこはこの街でもとびきり高い石塔の、先端から、大男1人分ツルッと滑り落ちて、ちょうど収まる所に張り出した一畳間の足場だ。  一歩踏み外せば、たちまち神のみもとへ真っ逆さま。男はそんな場所で、遥か彼方に霞む工場の煙突が吐き出す煙のもと、ありんこのように忙しなく歩く人々を眺めて暮らしていた。
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