1.

2/6
前へ
/10ページ
次へ
命の危険との同居という部分に目をつぶれば、ここでの暮らしは至極快適だ。    男はまず、この塔を訪れるカラスと友人になった。賢いカラスは朝昼晩の折を見て、男のところへパンや木の実を運んでくれる。  雨の多いこの街では、水に困ることはない。ほら、こうしている間に、ポツリ、と男のシワまみれの固い額でしずくが弾けた。  男が天へ向かって口を広げるとすぐ、乾いた土にじょうろで水が注がれるように、本降りの雨が男の喉の奥にまで注ぎ込まれた。  人間、ものを食べればモノを出す。幸いここではだぁれも見ていない。  …町の住人たちは、この石塔の下を歩くとき、たとえ晴れの日であっても傘をさすのを忘れない。  なんでも、この塔の上にはいたずらな精霊が住んでいて、通行人めがけて汚物を撒き散らすんだとか。   困った住人がついに聖職者を呼んで、悪魔祓いを始める始末だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加