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15話
目が覚めればいつも通り、キャロラインがスープを運んできてくれた。食事を吐くようになったのはあの避妊薬のせいだったのか、と妙にレオンは納得してしまう。
「ねえ、キャロライン。ユーグリッド様は俺の発情期に毎回ずっと一緒に居てくださったの?」
カチャンと有能なメイドが手を滑らせる音をレオンは初めて聞いた。取り落としたカップからワゴンにお茶がこぼれるのをキャロラインが慌てて拭き取り、新しいものを準備する。
「も、申し訳ございません」
「いいよ、火傷しなかった? そのお茶ね、発情期に記憶をなくさないようにって開発してるやつなんだよ」
「そうでしたか……。はい、毎回ご一緒に籠られていました」
「そっか。うん、お茶の効果あったみたい。あとは不味いから味の改良かな。ユーグリッド様、いつお戻りになるか聞いてる?」
「明後日の夜にはお戻りになると」
「判った。じゃあ今日も研究所に泊まってくるね」
いつもと違う感覚の朝、いつも通りの会話をしてレオンは研究所に歩いて向かった。
「ハーブティー、どうだった??」
研究室に入ればセルトレインが近寄り、レオンの首筋の臭いを嗅ぐ。これもいつも通りだ。
しかしレオンの反応はいつもと違い、セルトレインをジトリと見つめる。
「その顔は効果あったってことだよね!?」
「……セルは知ってたの?」
レオンの問いににこりとセルトレインは可愛らしい微笑みを浮かべる。
「知ってたというかレオンの発情期に合わせて二人とも休むし、レオンから兄さんの、兄さんからはレオンの匂いするし、間違いなく一緒に過ごしてると思ってたよ。でもレオン、頑なに独りで過ごしてるって言ってたじゃない」
それは本当にレオンはそう思っていたのだから仕方ない。
だけど記憶にはなかったが今回の発情期で思い知らされてしまった。
ユーグリッドと発情期を過ごしていたという事実、何よりも愛撫され続けていた体はそれが今回だけではないと覚えていた。
発情期に入ってからレオンは自分が常に「ユーグリッドにどう触れられていたか」を考えていた。それはつまりその経験があったということだ。
思わずそんな自分を思い出してレオンは顔を赤く染める。
「うんうん、その反応なら悪い結果ではなかったんだよね、よかった!!」
羞恥で赤くなったレオンにセルトレインが抱きついてくる。思わず抱き止めたが、ふらりとよろけてしまいセルトレインが慌てる。
「ごめん。腰辛いよね」
「そ、そんなでも、ない」
ことは全くなく、腰も尻もいつもよりだるいし辛い。
(時々ユーグリッド様、変な顔してたからいつもよりも酷くねだってしまったのかも? それとも足りなかった? さ、さすがにあれよりも求めるなんてことは、ないよね。うん、ないない。あとはもしかしたら……)
「……悪い結果ってあのお茶副作用でもあるの?」
フェロモンの変化とか、そういった作用がお茶にあってそれにユーグリッドが気付いたのかもしれないと、レオンは思案顔になる。
「違うよ。それならちゃんと言うし、そうじゃなくて……記憶がないのは防衛本能だって言ってたから、もしかして兄さんがレオンに酷いことしてるんじゃないかって思ったんだ」
「それはない! っていうか……なかった。ユーグリッドさま……やさしかった……よ」
思い出せば思い出すほど真っ赤になって湯気が出そうな顔をするレオンをセルトレインはにこにこと見つめる。
自覚はともかく愛らしいΩ二人が仲良くしてる姿はまるで周りに花が舞ってるように見えただろう。
「おい、なんでレオンがここに居るっ!」
しかしそんな可愛い雰囲気を一瞬で霧散させるに充分な低い声が研究室に響いた。
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