19話

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19話

 そっとレオンの手をユーグリッドは握る。 「レオンにはかなわないな……昔から誰に酷いことを言われても、包み込むように許してしまう。オレのことももっと責めて、(ののし)ってくれればいいのに」  懺悔(ざんげ)をするようにレオンの手を額に当てて、悲痛な顔でいうユーグリッドもあまりにも絵になるような美しさで、レオンはほわりと思わず見入ってしまう。  しばし見つめてから、はっと言葉の意味を考えた。 「あの、ですから……感謝してますし、俺には何もかもが勿体ないですし、むしろ俺のために犠牲になったユーグリッド様の方こそ、俺を罵るべきだと思います」  きっとユーグリッドはいまだに研究所でのことに責任を感じているのだろう。  しかしあれはレオンの考えの甘さもあったのだ。誰か知らない相手に一度抱かれたくらいで、今は大好きなユーグリッドにレオンは体だけだとしても愛して貰えている。  ユーグリッドの方が犠牲が大きいとレオンは思っている。 「犠牲? ……私はなにも犠牲になどしていない」 「俺と結婚までして責任とってくれているじゃないですか。ユーグリッド様の未来を……俺のために犠牲にしました。俺が番でなければ子どもだって欲しかったのでしょう?」 「何を馬鹿なことを。オレ……私はレオンを自分のものにしたくて、あの時無理やり抱いたんだ。レオンはそれが、オレが、嫌だったから拒絶したんだろう? 子どもだって君が嫌だと言ったんじゃないか」 「無理やりじゃないです。俺こそ大好きなユーグリッド様の番にして貰えるだけでも良かったのに、結婚までしてもらって……あのときは顔を見て萎えられたらやだなって、だから顔を隠してましたけど拒絶なんてしていません。子どもが嫌? 産まなくていいって言ったのはユーグリッド様ですよね??」 「待ってくれ。……レオンがオレを…大好き?」  ばっと顔を上げたユーグリッドと目が合い、落ち着いてきたレオンの体温がまた一気に上がる。 「す……好きです。ユーグリッドさまが……好きです。ずっと大好きです。お伝えするタイミングもないし迷惑にもなると思って……言ったことなかったと思いますけど、託児所でお会いしていた時から憧れてました」  声は震えたが、視線をそらさずになんとかレオンは言葉を紡いだ。
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