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2話
この世界で子どもを成す生物上の組み合わせは男女の他に、αとΩがある。
男女は生まれた時に陰茎のあるなしの見た目で判断されるため第一性とよばれ、αΩは男女の性が機能しはじめてから判断されるため第二性と言われる。
ただし第二性を持つ者は少なく、大多数の第二性を持たない者はβと呼ばれていた。また判別できるのはある程度大人になってからだが、第二性自体は生まれた時に決まっているというのが有力な学説である。
男女は主に体の成長に差異がでるが、αΩは全般的な能力の成長に差異がでた。
αはすべてにおいて優秀で、見た目や頭脳、運動神経などなににつけてもトップクラスだ。貴族などの支配階級に求められる性別である。
Ωは愛されるために生まれたと言われるほど愛らしい容姿が特徴であり、優秀なαを産めるのはΩだけだと言われている。また子を成しやすく、血統を重視する貴族に娶られることが多い。
そんなΩの特徴から昔は子どもを産む道具のように権力者に利用された時代もあった。だがそれを良しとしないαが社会を変えた結果、現在この王政国家カトラシアでは第二性がなんであっても自由恋愛が認められ、一夫一妻が法律で定められている。
それは王族でも貴族でも同じだ。
カトラシアの国教である水の女神が一途な愛を説くというのも大きい。一度結婚すると離縁するのは難しく、もし別れてもお互い生涯面倒を見る必要があった。
貴族なんかはもちろん第二性も関係なく愛人を囲ったりする者もいる。ただ離縁をすると家格が落とされる場合もあるくらい、離縁には厳しい風潮なのだ。
だから自分は最初に番になった時以来、伴侶と夜を共にしていなくとも、この家から追い出されない。
一週間の発情期を終わり、思考が戻ってきた。気持ちとは裏腹にさっぱりとした身体で目を覚ませば、慣れ親しんだ自分の部屋のベッドですでに泣く気も失った事実に思いを馳せる。
調子にのってまた尻穴に張形を入れまくったのだろう。尻が痛い以外、普段と変わりがない朝だ。
トントンとノックの音がして「失礼いたします」とメイドが入ってくる。金色の髪を左右で三つ編みおさげにした可愛らしい少女、というと本人が怒るが、大変な美少女だ。美少女だけど年齢はベッドの主より年上である。
この愛らしさでβだというから初めて会った時は驚いた。
「おはようございます、レオン様。お加減はいかがですか?」
「ん……いつも通り。お腹が空いた」
「朝食をご用意しました。ゆっくりお召し上がり下さい」
メイドの運んできたワゴンからおいしそうなスープの匂いがする。
レオンと呼ばれたベッドの主が身体をじりじりと起こすと、金髪おさげの美少女メイド、キャロラインが素早くその背にクッションを入れ、体勢を整えレオンをベッドに座らせる。
それからベッドの上に簡易テーブルをセットして、ワゴンからスープと柔らかいパンを並べ、紅茶を用意した。
「午後から研究所へ行きたいんだけど、ユーグリッド様はいつお戻りになるか聞いてる?」
レオンはキャロラインに言われた通りにゆっくりとスープを飲み、パンを浸して食べる。以前がっついて食べて全て吐くという失態をした事があったからだ。
一人身の時は発情期の間まともに食べていなくても、一週間ぶりの食事が肉の塊だろうが山盛りのピザだろうが食べられた。むしろ一週間まともに食事が出来ていない反動で食べまくっていた。
しかし番になると相手を誘惑するフェロモン以外の体質も変わるのか、結婚して二回目の発情期のあと、同じ勢いで食事をしたら痛い目を見たのだ。
胃が食べ物を受け付けないだけでなく、数日倦怠感も続くようになってしまった。
「旦那様は三日後の夜にお戻りになる予定となっております」
「……そっか、なら問題ないね。今日は研究所に俺も泊まってくるよ」
ゆっくり食事をして、のんびりと支度をしてからレオンは自分の職場である研究所へ歩いて向かう。歩くのは正直尻と腰に響くのだが、身体を動かし外の空気を吸いたかった。
「レオン様、いつも申し上げていますが、そんなにすぐに動かれるのは身体に負担になると伺っています。せめて明日からにしてはいかがですか?」
この屋敷の者達は全員レオンに優しい。本来であれば主人にふさわしくない伴侶として嫌ってもおかしくないのに。主人が出来た人だから、使用人もそうなのだろうとレオンは思う。
「一週間も確認できていない実験が気になっちゃって。無理しないから大丈夫だよ。……ユーグリッド様には秘密にしてね」
(ユーグリッド様が屋敷に戻れないほど忙しいんだ。俺だって役に立たないと、皆にもこんなに良くしてもらっている恩返しができない)
レオンが微笑めばキャロラインはしぶしぶと言った顔で「承知いたしました」と了承してくれた。
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