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20話
レオンの告白にユーグリッドがぽかんと口を開けた。そんなちょっと間抜けな顔のユーグリッドも美しい。
レオンは覚えていないかもしれないが、ユーグリッドはレオンから「好き」と言われたことはある。だがそれは番になってからの発情期だったから、Ωとしての習性で口にしていたのだと思っていた。
「じゃあなぜ、あの時はオレを拒絶したんだ?」
「あの、だから萎えられたら嫌で……」
「違う、はじめての時だ」
「?? 番になった夜のことですよね?」
「研究所の執務室で抱いた時だ。オレだとわかっていたからオレの名前を呼んで、助けて欲しいって制止したんだろう??」
「??????? あの時はっ、ユーグリッド様が誰かから俺を助けてくださったのでは?」
「……何度も言っているが、レオンに酷いことをしたのはオレだ」
「そんなのは不可能です。理性を失ってたなら俺を助けることなんてできないはずです。理性のあったユーグリッド様が俺を襲うわけがない」
「っ!……それは」
「だから違うと、俺をというかみんなを納得させるための嘘だって、俺だって気づいてます」
レオンの言葉にユーグリッドが息を飲む。
「あの時、本当に、誰に襲われたのか……判っていなかったのか」
あの日、目覚めた時と同じように真っ青な顔で、ユーグリッドはレオンを見つめる。
「どうも俺は発情状態になると記憶がないというか、曖昧になってしまうみたいで覚えていません。だからもう、嘘はつかないでください。大丈夫ですから」
あの日刻まれた身体の記憶も、すでにユーグリッドとの営みで書き換えられている。レオンはユーグリッドの手を握り返せば、安心させるように蒼白な顔に微笑んだ。
「……ではなぜあの時にオレの名を? 記憶が曖昧になる前だったからじゃないのか?」
レオンはその問いに答えるのをためらう。
恥ずかしくて言いたくはないが、ユーグリッドの弱々しい声を聞いてしまえば、自分の羞恥心など投げ捨てるしかない。
「それは、その、……すみません。最初の発情期からずっとユーグリッド様のこと思い出しながら過ごしてて、だから発情するとユーグリッド様の名前を呼んでしまうみたいで、あと、あそこに行けば助けてもらえると思ってたし、ユーグリッド様の匂いがしたからその、助けてほしくて」
「誰か判らない相手に襲われながら、オレに助けを求めた……と?」
「はい」
セルトレインと友達になってからはユーグリッドの匂いのついたスカーフなどの私物もこっそり貰っていて、発情期のお供にしていたのだがそこまでは話さなくてもいいだろう。
ちらりとユーグリッドを見やれば、少し顔色が良くなっていたが複雑そうな表情をしていた。
「そうか、オレが勘違いしていたんだな。レオン、君を襲ったのはオレだ。嘘、偽りなく犯人はオレなんだ。君の発情に確かに誘発されたが堪えられるだけの理性はあった」
レオンはユーグリッドの告白に目を見開く。
確かにあの日からずっと、ユーグリッドは自分が襲ったのだと言っていた。言ってはいたが。
「理性が……あったなら、なぜ……?」
レオンの問いかけにユーグリッドは視線を彷徨わせてから、意を決したように再びレオンを見つめる。それでもまだいつものユーグリッドからすれば弱気な表情だった。
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