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3話
レオン・エトライザは平民だ。
優秀なβの両親の元に生まれた。
対するユーグリッド・アルタ=クリスタニアは貴族だ。
古くは王族の流れをくむ由緒正しいクリスタニア侯爵家の嫡子である。
クリスタニア家はΩの地位向上に寄与した一族として有名だ。
そもそもΩは子どもを孕みやすい三か月に一度の発情期が存在する。また特殊な誘惑物質を発出する事が出来、発情期は特にフェロモンを振りまく。
フェロモンはαの理性を払拭し、ただの種馬にしてしまう強力な物質である。それ故に優秀な人材を堕落させるとしてΩが危険視されていた時代もあった。
しかし発情期もフェロモンもΩが自分で調整する事が出来るようなものではないことも次第に判明した。Ωと同様にαも特殊なフェロモンを出すことができる。αは自分の意志で、威嚇やΩの発情を誘発するフェロモンをコントロールする事が可能だった。それゆえΩもそうであろうと思われていたのだ。
Ωを愛しその人格を認めたαが、自分たちの違いを突き止め、思い込みによりΩを不当に扱っていた世間の認識に一石を投じた。これがクリスタニア家の先祖だ。
そうしてすぐにΩのフェロモンを感知しにくくなるα用薬の開発を成功させた。番になれば変わるフェロモン感知の体質変化を応用したのだと言う。
いわく開発する者が優秀なαであれば自分を実験体とすれば研究も進み、さほど難しいことではなかったと。
この歴史から「実験体は己自身であること」というクリスタニア家の名言、いや家訓がある。
レオンの両親はこのクリスタニア家が経営する研究所の研究員であり、医者だ。研究だけならいざ知れず、病気は昼夜問わず発症する。優秀であればあるほど突然職場に呼び出されたり、不規則な生活になりがちな所員のために、その子ども達の面倒をみる託児所が研究所内にはあった。
レオンはよくそこに預けられ、子守の所員や、同じく預けられた子ども達と遊んだ。優秀な研究者や医者の所員はやはりαなことが多いのか、その子どももαやΩが多かったのだろう。
レオンとはまったく違うキラキラしたお人形や絵本のお姫様みたいな子どもも何人もいた。
その中でも群を抜いて、ユーグリッドは綺麗で目立つ子どもだった。
陽だまりの様な金の髪に空色の瞳。レオンには同じ子どもだとは思えなかった。
その頃のレオンは知らなかったがα同士は牽制しあう性質がある。だからか、ユーグリッドは話が合いそうな頭のいい子たちのところへは行かずに、レオンに話し掛けてくることが多かった。
レオンはユーグリッドの金の髪も青い目も綺麗で好きだったから遠くから見ていたかったけど、自分に話しかけてくることには委縮した。隣に座られるとそわそわした。話しかけてくる内容も難しくって、目が回った。
それにユーグリッドと仲良くしていると他の子たちから嫌われた。
どうしたらいいかわからなくって泣いていたら、子守のお姉さんが相談に乗ってくれた。
「じゃあ、レオン君はユーグリッド様と一緒にお話できるようにいっぱいご本をよんだらどうかな。ご本読むの好きでしょう?」
「……うん」
「それで他の子とも一緒にご本を読みましょうか。みんなで一つのことができると仲良くなれるのよ」
お姉さんの言う通り、レオンはいっぱい本を読んだ。
しばらくしてユーグリッドと話す時に目が回らなくなった。きちんと自分の考えをユーグリッドに話すこともできた。
だからレオンは他の子に言った「ユーグリッド様と話したいなら本をいっぱい読めばいいんだよ」と。そしてにわかに託児所で読書ブームが起きた。
10歳になったころ一緒に育った託児所の仲間たちも第二性が判明しはじめた。
レオンは自分は絶対にβだと思っていた。
両親もβだ。親戚にはΩもαもいるにはいたが、貴族に嫁いでいたりで会ったことも無い。祖母の従姉妹の孫とか、そんな遠い血縁だったからだ。
それにΩやαの特徴である見た目の良さもレオンにはなかった。
茶色の髪はくせ毛で鼻は低く、目が悪いからかものを見る時に目を細める癖もあって、到底愛らしいと言える顔ではない。
それなのに判定はΩだった。
託児所の仲間は「結果が間違ってるんじゃない?」とほぼ全員が言った。言われなくてもレオンもそう思ったから、両親に頼んで再検査もしてもらったが判定は変わらなかった。
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