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7話
セルトレインの番であるコーディことコデルリヒトは、この王政国家カトラシアの第二王子である。
幼少期に出会った二人は惹かれ合いすぐに婚約し、上級学校卒業と同時に結婚した。第二王子と侯爵家次男の結婚式はそれはもう豪華で、二人の友人として参加したレオンは場違いすぎて怖かった記憶しかない。
その時、親切にサポートしてくれたのはユーグリッドだ。
「良かった、間に合った。ただいまコーディ」
セルトレインは今まさに出かけようと玄関先に居たコデルリヒトに駆け寄る。
「おかえり、セルトレイン」
駆け寄ったセルトレインをコデルリヒトは抱き寄せると、左右の頬、額、唇と啄ばむようにキスを落とす。セルトレインも満足気な顔になればコデルリヒトにお返しした。
(二人は変わらないなぁ)
学生時代から仲の良い二人の様子は見慣れていたし、使用人たちも慣れているのだろう。主人二人の睦まじい様子を静かに見守っている。
「レオンも良く来た。オレは出掛けるがゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます、コデルリヒト様」
コデルリヒトは漆黒色の髪に紫の瞳の精悍な顔つきの美丈夫だ。学生時代は子どもらしさもあったが、今は非の打ち所ない大人の魅力に溢れている。
ただ名残惜しいのか、渋々セルトレインと離れる姿は飼い主と離される犬のようでちょっと微笑ましい。
ユーグリッドがスマートな美形だとするとコルデリヒトはワイルドな美形である。どちらも優秀なαで美貌の持ち主だったが、レオンはやはりユーグリッドが一番かっこいいと思った。
コデルリヒトを見送り屋敷にあがればすぐに夕食となった。セルトレインが連絡してくれていたのだろう、食卓にはレオンの好物ばかりが並んでいた。
感謝しつつも胃に負担がかからない程度に控えておく。
「具合悪い?」
普段なら大食いのレオンが食べない姿にセルトレインは眉を顰めるが、理由を説明すればぎゅっと抱きしめられた。「兄さんの馬鹿」と聞こえた気がしたが、レオンは聞かなかったことにした。
夕食が終わればお待ちかねの時間である。
「ははうえと、れおんだーっ!」
「りゃーおー!」
サロンではメイドに連れられた子ども二人が、レオンとセルトレインの登場に歓声を上げる。
三歳の兄ファルトラシアと一歳になったばかりの弟アルティアンだ。
セルトレインはメイドが抱き上げていたアルティアンを受け取るとソファーに座る。
「お邪魔します」
レオンは可愛らしい兄弟にお辞儀をすると、ファルトラシアはぺこりと可愛らしくお辞儀をし、アルティアン片手をあげて「だぁっ!」と挨拶を返してくれた。
「れおんは今日お泊りしますか?」
セルトレインの隣にレオンも腰を下ろすと、その隣にファルトラシアがちょこんと座る。
父親譲りの紫水晶のような瞳に黒髪の、それはもう天使のように綺麗な子だ。まだ三歳と言えど可愛い子に目をキラキラさせて見つめられればレオンは照れてしまう。
(セルの子だからかもしれないけど、ちょっとだけ昔のユーグリッド様に似てる気がするんだよね)
可愛いなぁとレオンの頬が緩む。
「うん、泊まっていくよ」
「ほんとうっ!? それならご本を読んでくれますか?」
「もちろん、いいよ」
「ファル、コーディが居ないからって夜更かしは駄目だからね」
「わかっています!」
レオンが答えればファルトラシアはぱあああっと顔を輝かせ、セルトレインの忠告にも元気よく返事をすればメイドと共に部屋に本を取りに行った。
「ファルはしっかりしてるね。可愛いなぁ」
「えっと、レオン。それあまり兄さんの前で言わないでね?」
「え…あ、うん」
レオンの呟きにセルトレインは微妙に遠い目をしながら言う。
ファルトラシアは三歳にしてはしっかりした子どもだ。たぶんαなのだろう。レオンがお気に入りで親戚の集まりではべったりとレオンにくっつきに行く。その度にユーグリッドに威嚇されて半泣きになるがめげない。
本を読みたいと言えばレオンの膝の上に乗れるだけでなく独占もできる。我が息子ながら大変姑息でαらしいとセルトレインは思っているが、嫉妬深い兄が知ったらと思うとちょっと怖い。
「……兄さんに子育ては無理だろうなあ」
我が子であってもレオンを独占したら嫉妬で荒れ狂う姿が目に浮かぶ。一緒に絵本を読むレオンとファルトラシアの姿に思わずセルトレインはため息をついた。
そんな事をセルトレインが考えているとは知らず、親友の言葉をレオンは全く違う風に捉えた。
(そうだよな、俺のせいでユーグリッド様は子どもを諦めたんだ……本当は子ども好きなのに…)
託児所で自分を含め年下の面倒をよく見てくれたユーグリッドを思い出せば、申し訳なさで胸が苦しくなる。
「れおん?」
「あ、ごめんね。……そうして魔法使いは――」
レオンは胸につかえる重苦しいものを追い払うようにファルトラシアに微笑めば、絵本の続きを読み始めた。
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