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9話
ズッズッ……と椅子に上半身を乗せた後ろから体の中を暴かれる。とにかく熱い。
「いやぁっ……ゆーぐ、さぁ…まっ…んんぅ…たすけ…ぐぅあっっ」
ぐちゅぐちゅという水音と、ぱんぱんと手を打ち合わせる様な、肌を打ち合わせる音がする。身体は動かず、されるままに揺すられる。身体が痛いのか気持ちいいのかも判らない。
足を開かされて腰を掴まれ、尻を突き出すようにして犯されている。
「ひぅっ…!! やぁああ! あつぃ…だぇ……こど…も、やだああああああああ!」
どちゅんと一層強く中に剛直を穿たれて、中に熱い飛沫を感じてレオンは悲鳴をあげた。
今までだって発情期がなかったわけじゃない。張形を使い自分を慰めて来た。揺さぶられれば気持ちが良くて、思わず好きな人の名を呼んだ。
だけど今は、これは違うと、本能が、いや理性が言う。
いつもの自室じゃない。
ここは研究所だ、と。
ここに、張形が、あるわけがないのだ。
腹の中が、熱い。
だから、いつもみたいにただ微睡むわけには行かず、助けを求め、抵抗した。身体はいうことを聞かないから、うわごとのように、いつも助けてくれる、大好きな人の名をレオンは呼んだ。
その抵抗をレオンはどれだけ出来ていたのか判らない。一瞬だったのか、結構長くできたのか。結局Ωの本能に飲み込まれ、すぐに気持ちよく乱れ善がっていたのだろうと、レオンは思い出せない自分の記憶をそんな風に思った。
次に目が覚めた時、いや、意識がはっきりした時、レオンはクリスタニア家の客室で寝かされていた。
「身体は……痛むか?」
いつもは綺麗に微笑む明るいユーグリッドが、真っ青な顔をしてすぐ傍に座っていた。
「……ぃ…ぇ」
レオンはすぐに状況がつかめなかったが返事をしようとした声はかすれて出なかった。とにかく無事であると伝えるために首を横に振る。
それでもユーグリッドは真っ青な顔のままで言葉を続けた。
「避妊薬は飲ませてある。子どもは出来ないから、安心していい」
ゾワリと言いようのない恐怖がつつみ、身体が恐怖でガタガタと震えるのをレオンは止めることができなかった。
記憶ははっきりしていないが誰かに襲われたのは間違いないのだ。
結婚まで綺麗な体で、番以外とは身体を重ねない……なんてことすら考えたことがなかったレオンは状況についていけない。
思考はついていかないが身体は勝手に怯えて震え、涙があふれた。
ユーグリットはそんなレオンが醜くて見ていられなかったのだろう。顔をそむけるようにして部屋を出て行った。
翌日声が出せるようになった頃、ユーグリッドよりも悲痛な顔をした両親がやって来た。
「俺、研究所、やめないと駄目かな」
両親にレオンが聞けば両親が目を見開いて驚いた。
「何言ってるんだ、怖い目にあったんだろう? 無理しないでいいんだぞ」
「レオンから言い難いなら、私たちから辞めるって伝えるわ」
「ううん、なんで発情したか判らないんだけど、俺はああいう時にΩだからって……痛い、思いしないでいいようにしたいんだ。このネックガードも効果はあったと思う。ほかにも緊急の発情止めとかあったらさ、いいと思わない?」
結果的にレオンは襲われたのだから完璧に消臭できたわけではないのだろう。
レオンを保護したのはユーグリッドで、襲ったのもユーグリッドだとセルトレインからレオンは聞いた。
ユーグリッドが助けたところは誰もが知るところだそうだが、襲われたことは当人であるレオンとユーグリッドの他はレオンの両親とクリスタニア家の数名しか知らないことなのだとも。
(ユーグリッド様は自分の部下の不祥事に責任を感じて、汚名を着ることにしたんだろう……俺がここで逃げたら絶対に駄目だ)
レオンの父は大粒の涙を流しながら息子を抱きしめる。
「さすがに個人でそんな研究できないから、研究所に残りたい。父さん、母さん、辞めるんじゃなくて残れるよう、話してくれないかな」
「判ったわ」
抱きあう父子を外側から母が抱きしめて、力強く頷いた。
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