7人が本棚に入れています
本棚に追加
一月の終わり。
颯真の顔を見たのはひと月以上ぶりだった。
颯真は仕事を早番にシフトチェンジしてもらい、毎日、仕事終わりに病院に通った。
「太ももの骨をくっつける手術をしたんだ」
颯真はうなだれて、そう言った。
やっと話ができたのは、私が休みの日で、颯真が仕事の日の、お昼休みだった。
どうして私が貴重な休みに、たった一時間、食事をしながら話をするだけのために、こんなに颯真に合わせなければならないのか。
そんな気持ちがなかったとは言えない。しかし大変な状況なのは颯真なんだから、ここは彼女の私が支えなくては。
「太ももの中の骨にボルトを入れて、固定したんだって。舞(まい)さんの……被害者の……太ももに十センチ以上の長い傷ができた。俺のせいで。まだ若くて、将来がある女性が……」
颯真はずいぶん痩せた。顔色も悪い。
私が作ってきたお弁当を半分ほど残した。颯真の好物ばかりを作ってきたのに。
「残してごめん」
私にまで気を遣っている余裕はないのに、颯真はひと言謝って、お弁当箱を返してきた。
「無理して食べることないよ。そのうち食べられるようになるよ」
そんなことしか言えない。なんて励ましたらいいかわからない。
「もう少ししたらリハビリが始まるんだ。結構痛いらしい。俺、できるだけ、舞さんのそばについていたい」
颯真はクマが目立つ顔を歪めた。
「颯真……。私も協力する。私が颯真の代わりに舞さんに付き添う日も作ろう。このままじゃ、颯真が倒れちゃうよ」
颯真はハッとして顔を上げると、驚いたように目を見開いた。
「それはダメだよ!」
「え?」
速攻で断ってくるので、私のほうが驚いた。
「あ……菜々子の気持ちは嬉しいけど……それじゃあ償いにならないから。俺が責任を取らなきゃいけないことだから」
颯真の勢いに私は違和感を覚えたが、それは一瞬で消えた。
「舞さん、たぶん、もう、一生……走ることはできないんだって」
という颯真の言葉に衝撃を受けたから。
最初のコメントを投稿しよう!