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S世代間の溝とかF不条理とか
「ねえラズロ」
「いいかリンジィ。何も言うな。ろくでもないことが起こるからな」
「三時のおやつ何にする?」
「今日は何の惨事だ」
リンジィは目を輝かせた。
ラズロは悪態こそつくが、最後には必ずリンジィの願いを聞き届けてくれるのだ。
半世紀近くを生き、酸いも甘いも嚙み砕く雑食で老眼の始まったおっさんラズロ。
リンジィは現在十二歳。
最高学府を十歳で主席卒業し屁理屈で武装した永遠の反抗期。
リンジィの所有する超小型宇宙艇は最先端の技術をこれでもかと搭載しているが、複雑怪奇な取扱説明書を解析しようとした名だたる操縦士がみな寝込んでしまった。
残ったのは説明書を読むのを最初から放棄したラズロだけだ。
見た目とは違い、上司はリンジィの方である。
「ラズロ、これを身に着けてね」
「おまえの作ったものなんて身に着けられるか。この間の赤い耳飾りは半年外れなかった挙句自動消滅システムが働いて大爆発したんだぞ」
「パズルが解ければ一瞬で外れたのに」
「象牙の塔の教授連中にも解けないものを組み込むな。なあリンジィ。俺が逝ったらおまえの外道な実験につき合えるやつなど宇宙中探したっていないんだぞ。俺をもっと大事に扱え」
「ラズロ、この下着はアンドロメダオオトカゲに噛まれてもあの子たちの猛毒を通さないんだよ」
「リンジィ、ちったぁ人の話を聞けよ。あいつらと遭遇したら最後、人間なんざ丸呑みされるだろうが。そもそもそんなちっぽけな布切れで俺の何を護れるんだ」
「うん、ラズロのちっちゃい肝っ玉くらいだね。それじゃこの目覚まし時計を」
「もう抜き打ちで試したじゃねぇか。そいつ止めようとしたら凄まじい悲鳴をあげたぞ。しばらく耳鳴りが止まらなかった」
「マンドラゴラ13世ちゃんだよ。さすがラズロだね。普通は正気を失っちゃうんだ」
「俺は今日こそ辞表を叩きつけようと思う」
ラズロは、今では見られなくなった紙の封筒を懐から取り出した。
「はいはい」
リンジィは鷹揚に受け取ると、肩から掛けていた黒いヤギのポシェットに突っ込んだ。
「みてみてラズロ!メーメーさん8号だよ。特殊金属でも秒で分解できるんだよ」
ひと晩かけて書いたラズロの退職届は一瞬にして塵も残さず消えた。
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