取り調べ

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取り調べ

 それでも遺体は発見された。不法投棄のゴミ集積所にこっそり入った人が遺体を発見してしまったのだ。 本当はそうなるようにと仕向けた結果だ。段ボールをわざと少しずらしておいたのだ。 せっかくの工夫が台無しになるのを防ぐためだった。日数が経ちすぎるとせっかく用意したアリバイが無駄になるからだ。  男性の身元はすぐに判明した。 そして遺体の腐敗状態で事件の起きた日を誤魔化すことに成功したことをニュースで知った。 実家に行っていた母娘のアリバイは完璧だった。移動時に忘れ物をして、駅に着いて申し出をしたのだ。 アリバイを証明するのに身内だけではダメだとアドバイスした結果だった。証拠とするにはうってつけだったその写しを提出したから警察は容疑者から外したのだ。 てなことは彼女は容疑者の一人だったのだ。被害者が彼女を何時も遠くから見ていたからだ。 周りの者もストーカーだと認識していたのだ。  「アリバイは完璧だな」 「でも、状況から言ってあの人以外考えられない」 任意同行での取り調べの時、警察官が呟いているのが聞こえてきた。 つまり俺も疑われて取り調べをうけていたのだ。 例のストーカーがアパートの周りを彷徨いていたことは調べがついていたからだった。あの母娘じゃなければ近所の者かも知れないと思ったのだろうか? 現場に二本の轍があり、それが俺の所持している車椅子と同じだと判明したからだった。 所詮車椅子は皆似たり寄ったりなのだけど……。 勿論タイヤに付着した土などははキレイに拭った。それが俺が事情調査を受けている理由だ。 此処で『俺がやりました』何て言えない。 あの二人に約束したアリバイ作りは本当はやっていなかった。俺は敢えて誰にも会わない日々を過ごしていたのだ。尤も俺には友達なんて呼べる人はいなかった。長年の母の介護で付き合いは皆無だったのだ。
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