かいてきネットスーパー

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 今日はカヨコとマイがこちらに遊びにやってくる日だ。  昨日、アオンアプリでメッセージを送ったが既読になっていない。  今日は少し早起きして電車に乗ると言っていたから早めに寝たのだろう。電車でも2時間はかかる。  女性は準備に時間がかかるというから男の自分とは時間軸は少し違うのだろうと、斎藤は思った。  昼間は温泉に行って、夜はバーベキューの予定だ。そのため、今日は有給休暇を取った。単身赴任になってから初めてのことだ。  バーベキューの主役はもちろん謎肉ラムに謎肉マトンである。  今日、その主役が届く。  いやいや、主役はカヨコとマイだ。たしか11時に到着予定だったはずだ。駅まで迎えに行こう。  そう思い、斎藤は車で駅に向かう。  金曜日とあってか道はそれなりに混んでいる。信号につかまって待っていると対向車線にはアオンネットスーパーの宅配車が同じように停止していた。  この感じからするとなんとなくだが、うちに謎肉ラムと謎肉マトンを届けてくれる途中のような気がする。  そう思うとなんとなく親近感がわくから不思議だ。  斉藤は笑顔ですれ違う。一瞬、宅配車運転手と目があったような気がする。優しく微笑んでいるように見えたのは贔屓目だろうか。  駅に到着してカヨコとマイを待つ。  駅構内に電車が到着する旨のアナウンスが流れる。今日は快晴で風もなく穏やかだ。遅延の心配は杞憂というもの。  降車した乗客たちで改札口がすぐにいっぱいになった。その人混みを見ていると、はやく会いたいという焦燥に駆られる。温泉は一緒に入るわけにはいかないが、はやり楽しみは夜のバーベキューだろう。歩いて行ける距離に火気OKな公園があるのはまさに僥倖というべきだ。  ひととおり人の流れが落ち着いたがカヨコとマイの姿がない。到着時間を間違っていたかな? と、思いアオンアプリメッセージを立ち上げる。電車の時間は間違っていないが、昨日送ったメッセージはまだ既読になっていない。  事故にでもあったのではないか? だとしたら、いつ? どこで?   なんでもっと早くに気付かなった? 既読にならないのがおかしいと思ったら電話をするべきだろう?  さまざまな後悔が頭の中をぐるぐるとした。しかし、そこで思考を止めてはいけない。  まずは警察に相談? カヨコの実家は?  斉藤はカヨコの実家に連絡を入れつつ、警察に相談に行く旨を伝えた。カヨコの実家は他県で離れている。やはり、実家にはいなかった。  警察に相談するも事件性が認められないとのことで取り合ってくれない。それどころか斉藤に普段、暴力をふるっていないか尋ねてきた。カヨコたちがDVで逃げたかもしれないと疑っているらしい。会話が全く通じないが捜索願だけは提出した。  本当は今すぐ探してほしいのに。  昨今は失踪者が多いだの、なんだのと話にならない。  仕方がないので車で■■市のマイホームまで行くことにした。  ドアを開け、中に入るもそこに二人の姿はない。  特に争った形跡もない。居間には旅行カバンが二つ、並んで置いてあった。いったいどこに? 斉藤は頭を回転させるがまったくわからない。  ただ、台所の炊飯器には炊いた米が入っており、キッチンには食事が二人分準備されていた。  ひょっとしたら、行き違いになったのかもしれない。急いで戻ろう。そうだ。メッセージが入っているかも。  アプリを立ち上げて確認するが、メッセージは入っていない。しかし、家にいないとなると単身赴任先のアパートに向かっている可能性がある。  でも、なぜ食事の準備がしてあったんだ? いつもと同じように身支度をして。違うのは―――。  いやいや、この前、カヨコが変な話をするから。 「牛や豚じゃないんだから……」と、言葉にすると背中に悪寒が走った。  斉藤はとにかくアパートに戻ることにした。    アパートに戻る頃には日が暮れ始めていた。腹も減った。朝から何も食べていない。しかし、食べる気もしなかった。  玄関にたどり着くとアオンネットスーパーの宅配物が届けられていた。保冷用容器に保冷剤。中身が傷む心配はない。  せっかく買った肉だからとりあえず冷凍庫にしまうことにした。  謎肉シリーズの新サービスとして産地などの情報が記載されたペーパーが同封されている。 「このたびは謎肉ラムと謎肉マトンをお買い上げいただきありがとうございます。いずれも■■市の豊かな自然が育んだ逸品となっております。今回のラムとマトンは同血統種(親子ということです。少し生々しい表現ですね( ̄▽ ̄;))ですので同じ肉質のようで異なった味を堪能いただけます。またのご注文を心よりお待ちしております。今後ともアオンネットスーパー”かいてき”をご利用ください。※生食用ではありませんので、よく火を通してからお召し上がりください」  家出などの失踪事件の増加。同級生だった高橋の失踪。  そしてカヨコとマイ―――。  何かが一本の線で繋がっているような錯覚を覚えたが、その考えを斉藤は無視することにした。  アプリのメッセージを確認したが、やはり既読にはなっていなかった。
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