ソープディッシュ

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 藤井は未だ申し開きがありそうな松島には全く目もくれずに、包装が破られ、半ば中身が覗いている石鹸本体へと手を伸ばした。  赤みが強い黄色いの楕円形には、くっきりはっきりと歯型が刻まれていた。 ――松島の前歯の跡に間違いないだろう。  よくよく包装を眺めてみれば、確かに松島が言う通り『美味しそうな』絵柄だった。  黄色い果肉の真ん中に、黒い種の粒々が集まっている果物といえば・・・・・・  藤井には、すぐさま思い当たった。 「パパイヤだ」 「え?パパイヤって、果物のか?」  藤井は大きく、深くうなずいた。 そして、厳かに宣言をする。 「この石鹸の原材料には、パパイヤが用いられている」 「何でわざわざ、セッケンに果物を入れるんだよ・・・・・・」  松島がつい、こぼしてしまった恨み節に、藤井は真面目に答えた。 「多分、タンパク質分解酵素がある為だ」 「は?」  単なる愚痴が真っ当に返って来るとは思ってもみなかった松島は、最愛の恋人を宇宙人でも見るかの様な目で見つめた。 「パパイヤには、『パパイン』というタンパク質分解酵素が含まれているんだ。それが、皮膚の老廃物除去に作用することを期待してじゃないかな」
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