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座ったままの松島は藤井を見上げて、言った。
「先ずは藤井が食べたい」
「・・・・・・」
「先ずは」と正直に言うあたりが、何とも食いしん坊の松島らしい。
呆れるのを通り越して、藤井はすっかりと納得してしまった。
ほとんど破れかかっていた包装から、中身を引きずり出した。
「――分かった。じゃあ、一緒にこの石鹸を使おう」
「えっ?それって・・・・・・」
「何時までも歯型を残したままじゃ、松島もいやだろ?」
確かに、「お菓子と間違えて石鹸をかじったことは恥ずかしい」と松島は思ったが、ただそれだけだった。
歯型うんぬんは、全く考えていなかった。
藤井も本気でそう考えていないのは、手にした石鹸を松島の目の前で揺らしているのが何よりもの証拠だ。
まるで、松島自身がつけた歯形を見せつけているかの様だった――。
松島は甘ったるい香りを放ち続けている石鹸を、持っている藤井の手ごと掴んだ。
「一つ、訊いてもいいか?」
「な、何をだ?」
同じ上目づかいでも、先ほどとは全く違う光を宿した松島に問われる。
思わず上体を引きかけつつも、藤井は応じた。
「このセッケンも、オヤマダって人に貰ったのか?」
「違うよ。全然違う、別の人」
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