七☆

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七☆

 それからのことはよく覚えていない。志信の手に誘われて隣室の布団の上に転がされて、志信の誘うままに、白い肌をまさぐり掻き抱いて、喘いでいた。  俺と同じ男のモノに触れさせられても、嫌悪感は無かった。元々体毛の薄い志信の肌は滑らかで艷やかで、欲情を兆して立ち上がった小振りなそれも何か花の蕾のようで、志信が俺の手の中で逐情した時には、花の蜜が溢れ出したような、そんな感覚だった。  言われるがままに、指を触れた志信の後孔も内壁をなぞるうちに熱く潤んで、しっとりと柔らいで、自分の不格好なものをそろそろと刺し入れると、包み込むようにうねった。そして俺は無様に腰を振って、志信の中に果てた。  しっかりと俺の頭を抱きしめる志信の瞳から細い涙の筋が流れた。 「ありがとうな、啓介」  俺は志信の胸に頭を埋めて、ただきつくその身体を抱きしめた。 ーー花だ……ーー  紛れもなく、俺の中の志信は花だった。ひっそりとしろしろと咲く、無明を照らす花だった。そして俺の手の中で開いた花だった。   その夜、俺たちは身を寄せ合って眠った。  段々と遠ざかっていく祭囃子の音色を聞きながら、互いの汗を交わらせて、夢の中に墜ちていった。  因みに気をきかせてくれた下足番のおかげで両親は、朝帰りの俺に何も言わなかった。  ただ、翌日から少しずつ晩酌に付き合わされるようになったのは妙だった。  志信の『衿替え』は無事に、恙無く済んだ。花街のイベントとしての披露目の儀も理解のある贔屓客の盛り上げもあり、志信の祖母の茶屋は盛況を博した。  親父の背中越しに挨拶廻りの姿を垣間見た志信はやはり美しかった。島田髷の鬘をつけ、黒留袖の左褄を取って歩く後ろ姿はどんな女性より艶かしく、儚げだった。  着物や一式は志信の養父が用立てた。杜若に八つ橋の縫取りの留袖は華やかな芸妓の衣装の中でも一際異彩を放つものだった。伊勢物語よろしく女姿であっても色男ーーそんな含みを持たせた衣装だと、後で聞いた。宴席はあったものの、床入りは無し、と聞いて胸を撫で下ろす俺に、志信は、こっそり袖の中で親指を立てて見せた。        
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