【そして私は、おへんろ旅に出た…】

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【そして私は、おへんろ旅に出た…】

時は、深夜0時に5分前であった。 私は、つかれた表情で帰宅した。 妻がリビングで私の帰りを待っていた。 テーブルの上には、アジフライとサラダと白菜の漬け物が盛り付けられているお皿とごはんとみそしるを入れるちゃわんが伏せられた状態でならんでいた。 妻は、私が帰ってくるなりにイラついた声で言うた。 「夏彦さん、こんな時間まで何していたのよ!!ごはんの時間までには帰ってきてと言うたのに!!なんでまっすぐに帰らなかったのよ!?」 私は、ひとことも言わずにだまっていた。 妻は『何とか言いなさいよ!!』と怒鳴りながらテーブルを平手打ちで思い切り叩いた。 私は、妻に対して離婚すると言うた。 「離婚だ…本当に離婚だ…今回の裁判の主犯の男の控訴を取り下げた…これ以上、極悪人の弁護を続けていくことはできない…」 私の言葉を聞いた妻は、思わず絶句した。 「控訴を…取り下げた…」 私は、怒りを込めながら妻に言うた。 「お前…あの時私に何て言うた…『控訴の手続きを取らないとうちに居られなくなるのよ…』…よくもオレをキョーハクしたな!!…もう許さないぞ!!」 「何よ!!人でなし!!」 「人でなしはお前の父親だ!!弁護士の本分は、弱い立場に置かれている人たちを救うためにあるのだ!!お前の父親はなんだ!!極悪人の弁護ばかりをしていたじゃないか!!ふざけるな!!」 私に怒鳴られた妻は、メソメソメソメソと泣き出した。 そして次の朝… 私は妻子と家と仕事をすてて四国霊場八十八札所の巡礼の旅に出た。 (ザザーン、ザザーン、ザザーン…) 時は流れて… ところ変わって、日和佐海岸にて… 私は、ひとりで海をながめながら考え事をしていた。 私の旅は、凶悪事件で帰らぬ人となった人々を(とむら)い、今もなお苦しんでいる被害者遺族(ごいぞくのみなさま)と被害者のみなさまに対してつぐなう旅である。 私は… 許されないことをした… だから… 一生をかけてつぐなうしかない… 私は、休憩を終えたあと海岸沿いの国道を歩いて高知方面へ向かって歩いた。 【夏彦・終わり】
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