芽生えよ、BL精神

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 重機関砲から撃ち込まれた弾丸が陣地の胸壁を削り落とす。特に薄くなっている箇所の胸壁の裏側に隠れているカリゾンド・バーの体が衝撃でグラグラ揺れているのを見て、ハルシュオン・ハラニスは危険を感じた。怒鳴る。 「そこは危険だ! こっちに来い!」  大きな声で叫んだが、相手には聞こえなかった。重機関砲から発射される十二・七ミリ弾の掃射音がハルシュオン・ハラニスの警告をかき消したのだ。 「胸壁が破られる! そこを離れろ! 早く来い!」  ハルシュオン・ハラニスは血相を変えて叫び続けた。その意味するところをカリゾンド・バーは分かっていない様子だ。 「な、何だ、何なんだ? どうしたってんだよ! 聞こえねえよ!」  向こうの怒鳴り声は聞こえた。危険性の説明をしている余裕はなかったので、ハルシュオン・ハラニスは手に持っていた携帯式の対戦車ロケット・ランチャーを置いて地に体を伏せてカリゾンド・バーの方へ這い進んだ。もっと近くで叫ぶか、あるいは腕ずくで引っ張ってくるつもりだった。そのときだった。重機関砲の銃声がひときわ大きくなった気がしたのは。  敵は、ここを狙っている。この部分の胸壁が崩れかけていることを知って、重点的に掃射しているのだとハルシュオン・ハラニスは分かった。土埃で汚れた顔を上げる。 「カリゾンド・バー! そこを離れろ! しゃがんでこちらに来い!」  短い呻き声が聞こえた。カリゾンド・バーの体がぐらりと揺れ、その場に倒れた。胸の真ん中に大きな穴が開いている。十二・七ミリ弾が胸壁を貫通し、そのまま若い兵士の体を貫いたのだ。  生存を確認するまでもない。即死だった。  生臭い血の匂いを鼻腔の奥で感じながら、ハルシュオン・ハラニスは元いた場所へ足から這い戻った。塹壕の底の土に、這って移動する地虫のような跡が残っているのが見えた。自分の残したものだった。  元の場所へ戻って一呼吸置く。そこには別の若い兵隊が震えて待っていた。名前はペーター・ヴァンオヘア。カリゾンド・バーの恋人だった男だ。  ペーター・ヴァンオヘアは体だけでなく声まで震わせて言った。 「あああ、どうして死んでしまったんだ、マイ・スイート・ハート? 僕を残して、自分だけ先に行ってしまうなんて、僕には理解できない。わけがわからないよ? 理由があるのなら、教えて欲しいよ。どうしてなんだい、マイ・スイート・ハート?」   体を起こしたハルシュオン・ハラニスはカリゾンド・バーの腕からもぎ取ってきた自動小銃の台尻で、カリゾンド・バーの元恋人の顔を殴りたい衝動を辛うじて抑えた。 「うるせえ! 黙れ!」  ハルシュオン・ハラニスは怒鳴って注意したが、ペーター・ヴァンオヘアの戯言は続いた。 「カリゾンド・バー、あああ、カリゾンド・バー! 君は僕を残して死んだ。とても悲しいよ。本当に悲しいよ。二人で一緒に語り合ったよね。戦いが終わったら、何がしたいって。君は言ったよね。エブリスタに小説を投稿するって、君は確かに、言ったよね。どんな小説を投稿するんだいって僕が尋ねたら、君は答えたよね。『エブリスタ小説大賞2023 集英社 少女・女性向けコミック全レーベル合同マンガ原作賞』に応募するって!」  苛々しながら聞きたくもない話を聞いていたハルシュオン・ハラニスの耳がぴくっと動いた。自己陶酔しているペーター・ヴァンオヘアは、そのわずかな動きに気付かなった。 「あああ、カリゾンド・バー、あああ、カリゾンド・バー! どうして君は死んでしまったんだい? 僕を残して死ぬことはないじゃあないか! 僕を一人、この寂しくて残酷な世界に残して、自分だけ天国へ行ってしまうなんて、何でなんだよ、ねえ、教えてくれよ!」  この三文芝居は、一体どこまで続くのか? まだまだ続くのなら顎に一発拳固を食らわしてやってもいいと、ハルシュオン・ハラニスは考えた。だが、手加減が必要だろう。顎の骨を砕いたら、カリゾンド・バーの口から『エブリスタ小説大賞2023 集英社 少女・女性向けコミック全レーベル合同マンガ原作賞』に関する話を聞き出せなくなる。振り向きざまにペーター・ヴァンオヘアの顎の先に左フックをぶちかまそうとハルシュオン・ハラニスが拳を固めた、そのときだった。味方の兵士が数名、こちらへ向かってくるのが見えた。 「応援に来た。敵はどんな風だ? こっち側の具合はどうなっている!」  体を低くして小走りで近づいてきた男が大声で尋ねてきた。ハルシュオン・ハラニスが答える 「カリゾンド・バーが死んだ。胸壁を突き破った銃弾にやられた」  向こう側に倒れているカリゾンド・バーの仰向けの死体を見て、コソドーア・トモクンは言った。 「そのようだな。敵の様子はどうだ?」 「装甲車が厄介だ。車載の重機関砲を撃ちまくっている。カリゾンド・バーは、それでやられた」 「今は撃っていないぞ」  確かに、銃声は止んでいた。 「それなら突っ込んでくるかもしれん。様子を見てみよう」  ハルシュオン・ハラニスとコソドーア・トモクンは長い棒の先に付けた鏡で胸壁の向こう側を見た。十数名の歩兵が岩陰から飛び出して向かってくるところだった。  二人は胸壁越しに自動小銃を連射した。何人かの歩兵が斃れた。残りが突っ込んできた。背後から装甲車が重機関砲を撃って歩兵の突撃を援護している。  戯言を止めたペーター・ヴァンオヘアも反撃を開始した。ハルシュオン・ハラニスは自動小銃を置き、代わりに携帯式の対戦車ロケット・ランチャーを手にした。  敵は装甲車を中心にした部隊だった。いうなればボスキャラである装甲車を片付ければ、引き下がるかもしれなかった。  ハルシュオン・ハラニスは携帯式対戦車ロケット・ランチャーの安全装置を外した。楕円形の照準器の中に装甲車が入った。発射スイッチの引き金を引く。軽い衝撃を肩に感じた。ロケット弾が発射された。小さな翼のあるロケット弾が赤と黄色の混じった炎を吹き出しながらまっすぐに飛ぶ。装甲車は逃げる間もなかった。鋼鉄を貫通する弾頭が装甲車の前面に命中すると、その車体が一瞬、浮き上がった。続いて爆発が起こった。装甲車の周囲にいた多数の兵士が、その爆発に巻き込まれた。真っ赤なの炎を上げて燃える装甲車の回りには燃える死体が飛び散って転がった。生き残った兵士たちは慌てふためき、一斉に逃げ出した。  ペーター・ヴァンオヘアは胸壁を乗り越え追撃しようとした。ハルシュオン・ハラニスは止めた。 「止めとけ、深追いするな」 「何を言っているんだ! あいつらに僕は恋人を殺されたんだ! 復讐してやるんだ! カリゾンド・バーの無念を今、晴らさないでどうする!」  ペーター・ヴァンオヘアは恋人の復讐をしたいようだが、正しくは元恋人だ。ハルシュオン・ハラニスの知る限り、カリゾンド・バーの現在の恋人は別の男だ。 「それじゃ止めやしない、一人で勝手にやってくれ」  ハルシュオン・ハラニスとコソドーア・トモクンは敵が荒れ地の向こうに見えなくなると、カリゾンド・バーの遺体の手足を持って運び始めた。ペーター・ヴァンオヘアが生者二人と一個の死体に駆け寄る。 「ど、ど、どうする気だ?」  コソドーア・トモクンが答える。 「埋葬する」  ハルシュオン・ハラニスが付け加えた。 「お前は敵の再襲撃がないか見張ってろ」 「ちょ、ちょま、ねえ、ちょっと待ってよ! 恋人の僕が埋葬に参加しないなんて、そんな話あるかい!」  しかし、見張りは必要だ。他の兵隊は崩れかけた胸壁の修理を始めており、忙しそうだった。 「それじゃ、俺が見張ろう」  そう言ってハルシュオン・ハラニスはカリゾンド・バーの両足を持っていた手を離した。死体の足が当然、ぼたっと落ちた。それを見てペーター・ヴァンオヘアは、か細い悲鳴を上げた。 「あうおうおう……酷い、酷すぎる」  いちいちいちいちうるせえホモだ、とハルシュオン・ハラニスは苛立った。背嚢から双眼鏡を出して胸壁の向こうに広がる荒地を見る。巨岩が転がる乾燥した丘陵地帯をじっくり見たが、怪しい影はない。敵はとっくに逃げていた。振り返る。  後ろの方でコソドーア・トモクンとペーター・ヴァンオヘアがスコップで土を掘り始めていた。それを見ながらハルシュオン・ハラニスは背嚢のポケットに入れっぱなしになっていた水筒の生ぬるい水を飲み、煙草を吹かした。遠くからヘリコプターの爆音が聞こえてきた。首から下げていた双眼鏡を持ち上げ、それで音が聞こえて来た方を見る。緊張していた頬が緩む。  コソドーア・トモクンが大声で訊いてきた。 「味方のヘリの音だろアレ、そうだろ?」  ハルシュオン・ハラニスは答えた。 「そのようだ」  一機の輸送ヘリコプターが後方の平地に着陸した。後部ハッチが開き、中から人と物資が下りてくる。その中にグリズリーズ・メッサシューミットの姿があった。ハルシュオン・ハラニスより身長が十センチばかり高い。恐らく百八十五、六センチはある。高下駄みたいなブーツのせいだと皆は噂している。実際のところは分からない。本当の身長は何センチなんだと尋ねる奴は部隊にいない。何しろグリズリーズ・メッサシューミットは、この傭兵部隊のボスだ。そして恐ろしい男としても知られている。自分に対し舐め腐った態度を取る奴を容赦しない。  その物騒な男が近づいてきた。ハルシュオン・ハラニスは軽く敬礼した。 「ご報告します。敵の奇襲攻撃がありましたが、撃退しました。犠牲者が一名出ました。胸壁に損害が出ましたので補修しています」  ハルシュオン・ハラニスの報告を聞いたグリズリーズ・メッサシューミットは尋ねた。 「死んだのは誰だ?」 「カリゾンド・バーです」  グリズリーズ・メッサシューミットは迷彩服の胸ポケットから葉に青い(まだら)模様の浮かんでいる葉巻を取り出した。その吸い口を噛み切る。その痩せた頬に赤みが差した。 「マッチかライターがあったら、貸してくれ」  ハルシュオン・ハラニスはグリズリーズ・メッサシューミットの葉巻にライターで火を点けた。傭兵隊長は短く礼を言い、葉巻を吹かした。 「埋葬は済んだのか?」 「最中です」  ハルシュオン・ハラニスは短く答え、それから言った。 「葬儀のことですが、村落の聖職者には私から伝えておきます」  グリズリーズ・メッサシューミットは頷いた。あまり興味のある顔ではなかった。指揮官として部下の葬儀には参列するつもりだろうが、無神論者で現実主義者なので、内心は死んだ人間のことなどは、もうどうでもいいというのが本音なのだ。  グリズリーズ・メッサシューミットが立ち去ると、続いてハルシュオン・ハラニスも胸壁の傍を離れた。陣地に囲まれた村落へ入る。それほど大きな集落ではない。しかし、その中央にある宗教施設は立派だった。いや、元は立派だった、というべきか。曲がりくねった文様で装飾された外壁の尖塔は残っているが銃痕に傷付けられ、その芸術性は損なわれている。施設本体の天井を覆う黄金色の丸屋根は砲撃の良い的となって中心に大穴が開いていた。ろくに雨の降らぬ土地で良かったということか。  無人の村落を通り抜け、目的地の宗教施設に入る。扉は壊れて半分がなくなっていた。ハルシュオン・ハラニスは、ここにいる聖職者に葬儀を依頼するつもりだった。大きな斎場は屋根に大穴が開いており、太陽の日差しが差し込んで中が明るかった。その床の上に、この宗教施設の一切を司る聖職者ナフィーレ・サンドバーグがいた。全裸の美少年の上に覆いかぶさっている。その美少年の名前は、ダリュウ・フィリップスといった。二人は恋人だった。  ハルシュオン・ハラニスは互いの口を貪るように吸い合う二人を眺めた。咳払いをするべきか、と考える。いや、愛し合うことに夢中のナフィーレ・サンドバーグとダリュウ・フィリップスが、それに気が付かないかもしれなかった。それくらい二人は、二人ぼっちの世界に没入していた。自分たち以外、世の中に存在しないかの如くに。  実際、ナフィーレ・サンドバーグとダリュウ・フィリップスの二人にとって、世界は自分たちだけのようなものだった。この村落が戦争の最前線になったとき、居住していた住民は退去した。宗教施設付きの聖職者兼管理者も逃げ出した。残ったのは兵隊たちだけだった……かと思いきや、ナフィーレ・サンドバーグとダリュウ・フィリップスがやって来たのだ。施設の新たな管理運営責任者と助手という触れ込みだったが、それが本当なのか実は、誰も知らない。駐屯地の指揮官であるグリズリーズ・メッサシューミットが宗教団体の本部に確かめたとも言われたが、実際はやっていない気がハルシュオン・ハラニスはしてならない。敵に通じているのでなければ問題ないというのが歴戦の傭兵隊長の考え方だった。  敵はもちろん、同じ陣営の味方にも通じていないだろコイツらは……というのがベテラン傭兵ハルシュオン・ハラニスの率直な感想だ。この施設の一角にある住居に二人でこもりきり、何かニャンニャンやっている。傭兵たちとの交流はない。例外は、傭兵隊に死人が出たときだ。部隊から葬儀代を支払い、埋葬の時に何かムニャムニャとやってもらう。敵の遺体は普通に埋める。ムニャムニャしない。  今ナフィーレ・サンドバーグとダリュウ・フィリップスはムニャムニャではなくニャンニャンの真っ最中だった。ハルシュオン・ハラニスは考えることが面倒になった。大声を出す。 「お盛んなところ、お邪魔する。部隊に死人が出た。葬儀をお願いしたい」  汚いマットレスの上に寝かせられていたダリュウ・フィリップスが上気した顔でハルシュオン・ハラニスを見つめた。うっとりとした目だった。小さな口唇から白い歯が覗いている。そこから舌が出ていた。  美少年の舌は出っ放しだったが、聖職者は舌を口の中にしまった。彼は言った。 「済まないが、入る前にノックをしてくれないか」  ノックをしていなかったがハルシュオン・ハラニスは嘘を吐いた。 「何度かノックした。しかし返事はなかった」  ナフィーレ・サンドバーグは体を起こし、ダリュウ・フィリップスの上から離れた。それから優しい声で言った。 「奥へ行って服を着て来なさい」  はにかんだダリュウ・フィリップスがマットレスの横に置かれていたサンダルをつっかけ、尻をフリフリ揺らしながら奥の部屋へ駆けて行った。ナフィーレ・サンドバーグが愛する美少年の尻を恍惚とした表情で鑑賞する。振り返る。 「良い尻だと思わないかね? 美の象徴だと思うんだ、美少年の尻は! 美少女の尻とは違う。美少女の尻は、結局はつまり、女の尻なのだ。汚らしい経血を垂れ流す年増女の尻と、何ら変わらない。その点、美少年の尻は……ああ、何といったら、ノンケの人間に理解してもらえるだろう! 少年愛の美学を理解してもらうために、私は何と説明したらよいのだろう! フルーティー? そう、フルーティーだ。柑橘系の香りがする。花の香りもするよ。薔薇だね、薔薇。花なら薔薇だ。そう、薔薇だ。薔薇だよ!」  菊だろう、とハルシュオン・ハラニスは思った。だが彼は、余計な口を叩くのは好まない。 「葬儀はいつできる?」 「その前に、ビジネスの話をまとめよう。料金はいつもと同じだな?」 「ああ」  それは主計課の連中と話すまでもないとハルシュオン・ハラニスは考えたので、いつもと同じで決めた。 「それならば、これからやろう」 「分かった」 「死人の名は?」 「カリゾンド・バー」 「有名な同性愛者だったな。以前、君たちの隊員が話しているのを聞いたことがあるよ」  乱れた着衣を直しながらナフィーレ・サンドバーグは言った。そのときだった。 「待って、待って、待って。葬儀は後にした方が良いと思うよ」  伸びやかな手足をさらけ出す半袖半ズボンのスタイルで現れたダリュウ・フィリップスが言った。ナフィーレ・サンドバーグは鋭い眼光で愛人の美少年を見つめた。興奮しているようで、鼻の穴が広がった。唾を飲み込みながら尋ねる。 「どうして、そう思うんだい? 教えておくれよ」 「カリゾンド・バーの恋人、今、ここにいないでしょ。彼が戻ってきてからの方が良いよ」 「誰だね?」 「ムーシュルームシュ」  ハルシュオン・ハラニスは意外に思った。口をはさむ。 「よく知っているな」 「二人が手を繋いで誰もいない村の大通りを歩いているの、見たことがある」  渋いイケオジのハルシュオン・ハラニスに話しかけられ、ダリュウ・フィリップスは頬を真っ赤に染めた。それほど美形とは言い難いナフィーレ・サンドバーグは嫉妬で気分を害した。 「でもねえ、死者は早く安らかになりたいと思っているのだよ」  それからダリュウ・フィリップスに尋ねる。 「神学校へ言っていたとき、正統教義を教わったろう? さあ、口頭試問だよ。口頭試問を今、始めるよ。死者の思いと葬儀に関する――」 「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは後にしてくれないか? 口頭試問は俺のいないところで好きなだけやってくれて構わないが、今やられるのはごめんだ」  今すぐ葬儀をするかどうか、それを決めて欲しいとハルシュオン・ハラニスは言った。 「後がよろしいでしょう。カリゾンド・バーの恋人ムーシュルームシュがいた方が、故人は喜ぶわけですからね。ところで、その人物は今どこに?」  ヘリコプターの整備員であるムーシュルームシュ・ゲオルグニクスは駐屯地を離れていた。配備されている戦闘ヘリコプターの不調が発生したので、設備の整った後方の航空基地へ部品を取りに出かけている。 「後方の航空基地へ行っている。戻るのは夕方になるかもしれない」 「それなら、そのときで」 「こちらは、それで結構だ」  用が済んだのでハルシュオン・ハラニスは宗教施設を後にした。建物を出る時、中を横目でチラッと見たら、ナフィーレ・サンドバーグがダリュウ・フィリップスの露出した手足に触れているところだった。美少年愛の美学を実践しているようだ。理論と実技の両方を完璧に身に着けるつもりなのだろう。  村落を出て前線の近くにある蒲鉾型の宿舎に立ち寄った。ちょうど出てきた兵隊に、葬儀の予定を伝え、隊長へ伝達するよう依頼した。それから中に入る。整然とベッドが並んでいる。野戦病院ではなく、兵員の宿舎だ。その真ん中あたりにハルシュオン・ハラニスの寝床がある。彼は自分の寝床へ向かった。床頭台の引き出しを開ける。中にポメラが入っていた。それを取り出す。  ハルシュオン・ハラニスはベッドに座り、ポメラを起動させた。無精髭を指先で撫でながら、画面に表示された文章を読む。  そこには『エブリスタ小説大賞2023 集英社 少女・女性向けコミック全レーベル合同マンガ原作賞』の募集要項が書かれていた。 〔募集概要  集英社 少女・女性向けマンガ原作賞が大幅パワーアップ! 『りぼん』『マーガレット』『別冊マーガレット』『クッキー』『ココハナ』『マンガ Mee』『デジタルマーガレット』『君恋』が合同でコンテストを開催!  主に少女・女性読者が楽しめるマンガ原作を幅広く募集します  募集部門説明 【現代の少女・女性マンガ原作部門】 (時代設定が現代または現代に類する世界観でのマンガ原作) 【時代・ファンタジーマンガ原作部門】 (時代設定が『大正・明治・江戸』等の現代以外の時代、またはファンタジーに類する世界観でのマンガ原作) 【BL部門】 (BLをテーマとしたマンガ原作) 【BL短編部門】 (BLをテーマとした1万文字~5万文字までのマンガ原作) の4部門です。 具体的な作品ニーズは各レーベルの紹介をご閲読ください。 募集要項 1 5万文字以上の小説であること ※短編BL部門のみ、1万文字~5万文字未満の短編作品を募集します。 ※中間審査では最大10万文字まで読んで選考、選評作成をいたします。 2 コミカライズ原作となる少女・女性向け小説 ※ターゲットやジャンルは下記「レーベル紹介」を参照ください。 3 どの部門に応募しても、コンテストに応募することで協賛全レーベル選考対象となります。 『りぼん賞』『マーガレット賞』『別冊マーガレット賞』『クッキー賞』『ココハナ賞』『マンガ Mee賞』『デジタルマーガレット賞』『君恋賞』 それぞれで審査のうえ、受賞作品が決定されます。 ※原則レーベルを選ぶことはできませんが、著者様から受賞許諾をいただいた場合のみ、コミカライズを進行します。 ※BL短編部門のみ、原則『君恋』レーベルの短編BLとして審査いたします。 レーベル紹介 りぼん 少女漫画誌発行部数№1で、間もなく創刊70周年。『ときめきトゥナイト』『天使なんかじゃない』『神風怪盗ジャンヌ』などの誰でも知っている伝説的名作など、”子供から大人までみんなが楽しめる”漫画誌です。 想定読者 女子小学生~中高生 募集ジャンル メインターゲットである女子小学生が楽しめる内容であれば、ジャンルは一切問いません! 恋愛・友情・ファンタジー・ホラーなんでもOK! ファンタジー・『絶世の悪女は魔王子さまに寵愛される』や、ホラー・『絶叫学級 転生』の連載作も大人気です! 作品の方向性 ご自身が小学生の時に漫画を読んで楽しんでいたことを描いていただければ、それでOK! わかりやすさを意識した上で、子供たちの喜怒哀楽を刺激して欲しいです。 気になるキーワード 恋愛、友情、家族、ファンタジー、推し、夢・憧れ マーガレット マーガレットは、女子中高生を中心に女性読者に向けた少女まんが作品を掲載している隔週誌です。『花より男子』『メイちゃんの執事』『椿町ロンリープラネット』など、大ヒット作を多数生み出しています! 想定読者 女子中高生~20代前半女性 募集ジャンル 王道の学園恋愛ものをメインに、ラブコメ、青春、サスペンス、学園ファンタジーなども募集しています! メインターゲットである女子読者が読んで「楽しい」と思えるものであれば、ジャンルは問いません! 作品の方向性 読者が応援したくなる主人公、2人の関係性が気になって続きを読みたくなる作品など。 気になるキーワード 王道恋愛、学園恋愛、ラブコメ、青春、友情、学園ファンタジー 別冊マーガレット 別冊マーガレットは集英社が発行する、小学生から20代女性まで幅広い世代が楽しめる少女まんが月刊誌です。『君の届け』『アオハライド』『俺物語!!』などの大ヒット作を輩出しています。 想定読者 女子中高生~20代女性 募集ジャンル 読者層の女子中高生が楽しめる作品であればジャンルは何でもOK! 読者が「こんな青春してみたい」と思える内容であれば、必ずしも恋愛がメインのテーマでなくとも大歓迎です。皆さんの「好き」が詰まった作品をお待ちしております! 作品の方向性 王道のストーリーでも「この人にしかない強みがある!」と思える要素があると素晴らしいです。もちろん先が気になるような企画性の強い設定も大歓迎です。また、絵になったとき映えるかどうかも大きなポイントです。 気になるキーワード 学園恋愛、部活、ラブコメ、青春、ギャグ、現代ファンタジー、人間ドラマ、胸キュン、切ない クッキー 想定読者 20代以降の女性 募集ジャンル メインストリームは働く女性主人公の作品ですが、グルメ、ミステリー、時代物、裏社会など、多様な作品が掲載されているのでジャンルは問いません。今回は特に韓流ドラマ的な復讐劇や遺産相続などを描いた作品も求めています。 作品の方向性 ジャンルは問いませんが、キャラクターがはっきりしている作品。物語の核に恋愛感情のあるものを求めています。恋愛に関しては大人のリアルな感情(性欲)を描いた作品が、支持されています。 気になるキーワード 恋愛、溺愛、禁断の恋、共感、不倫、復讐、遺産相続、お仕事、グルメ、サスペンス ココハナ ココハナは『アシガール』、『美食探偵』などのメディア化作品や『抱きしめて ついでにキスも』などヒット作多数の「大人のための少女まんが誌」です。20~40代を中心に幅広い年代の読者がいる月刊誌です。 想定読者 20代以降の女性 募集ジャンル 恋愛はもちろん、ミステリ、コメディ、グルメ、ヒューマンなど「大人の女性」の心に響くものがあればジャンルは不問! 面白ければジャンル問わず響く読者がいます。幅広い読者にあなたが個性や愛を持って描けるものを届けましょう! 作品の方向性 最も大切なのはキャラクターの魅力です。また、読んだ後に元気が出て心に花が咲いたようなポジティブな気持ちになれるかどうかも大きなポイントです。 気になるキーワード 恋愛、結婚、離婚、ラブコメ、お仕事、ファンタジー、ご飯、人間ドラマ マンガ Mee 5周年を迎える女性向けマンガアプリで、累計DL数は1400万超! 雑誌の人気連載や過去の名作の配信と共に、オリジナル作品『サレタガワのブルー』『誰か夢だと言ってくれ』など多数制作、配信しています。 想定読者 10代~40代女性 募集ジャンル 胸キュン恋愛はもちろん、ミステリー・サスペンス・不倫などのドロドロ人間ドラマ・SFからBLまでマンガ Meeでは様々な作品が人気です。少女・女性をドキドキでも、ハラハラでも、楽しませたい気持ちが詰まっている作品ならオールジャンル大歓迎です! 作品の方向性 「思わず続きが読みたくなる関係性や設定」や「ママ友、職業ものなどリアルに描くために取材が必要な世界観」が含まれていたり、「めちゃ泣ける」「スカッとする」のように読み味の狙いが明確なものは印象に残ります。 気になるキーワード 溺愛、執着、主従、尊い、スカッとする、ドロドロ、オフィスラブ、強い女、不倫、契約恋愛 デジマ 2020年7月に本格始動した集英社の女性向けデジタルコミック専門のレーベルです。異世界ファンタジー、大人の恋愛、BLなどを中心に様々な女性に楽しんでいただける作品をお届けしています。 想定読者 ファンタジーやエンターテイメント要素の強い作品が好きな20代以降の女性 募集ジャンル 西洋や中華など、ファンタジー世界が舞台の作品をお待ちしています! ちょっぴり大人な恋愛や、2人の関係をずっと追いたくなるラブコメ、BL、不倫や復讐ものなど、エンタメ要素が強い作品であれば、現代日本が舞台の作品も大歓迎です! 作品の方向性 エンタメ要素が強い、大人の女性をターゲットとした作品。また、メインキャラクターはもちろん、敵役であれば”悪”に徹するなどの、登場人物の強いキャラクター性を大事にしています。 気になるキーワード 西洋ファンタジー、中華後宮、異世界転生、令嬢、溺愛、恋愛、BL、TL、不倫、復讐 君恋 「君恋」は2018年にスタートした、集英社発ボーイズラブ・マガジン。毎月1日、各電子書店で配信しています。”純愛”をテーマに、幅広いジャンルのBL作品を掲載しています。 想定読者 20代以降の女性 募集ジャンル 男性同士の恋愛を描いたボーイズラブ作品であれば、ジャンルは一切問いません! 青春学園もの、オフィスラブ、バディもの、ファンタジー、ミステリーなどなど、様々なテーマの作品を募集しています。 作品の方向性 主人公たちのキャラクターがきちんと描けていて、その感情がしっかりと伝わってくる作品。ご自身の「萌え」もぜひ詰めこんでみてください。 気になるキーワード BL、学生、社会人、純愛、青春、片思い、ラブコメ、ファンタジー〕  読み終えたハルシュオン・ハラニスは執筆途中の自作に思いを巡らせた。自伝的要素の強い作品である。これを出して見たら、何かの間違いで入選するかもしれない、と彼は想像をたくましくした。傭兵稼業は、職業ジャンルで重宝される可能性もある。  葬儀が始まると屋外に設置されたスピーカーから放送が流れた。ハルシュオン・ハラニスは墓へ向かった。簡素な葬儀が執り行われた。故人の新旧の愛人二人が号泣しているのが印象的な葬儀だった。  それを見てハルシュオン・ハラニスは自作にBL的な要素を追加してみようと考えた。泣き続ける二人の男を、作家の目で眺める。  素材になるのか? と疑問に思った。だが、書き続けることが大切だ、と思い直す。そうすれば、いつしか自分の内部にも、BL精神が芽生えてくるだろう、とハルシュオン・ハラニスは考えることにしたのだった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!