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今は三月下旬。来月には引っ越すことになった。包帯は取れていたものの、身体中の痣はまだ消えていない。それが目立たなくなってから、仕事を始めることにした。
亮は、もう少し落ち着くまで、ここにいていいと言ってくれたけど、長引けば長引くほど別れが辛くなる。
「冬華……まだ起きてる?」
ベットの中で、つぶやくような声がした。
「うん」
「……僕も好きだよ。冬華のこと」
身体の向きを変えて、彼の顔を見た。
「けど僕は、前の恋人と別れたばかりだし、冬華も、人恋しさを愛情と勘違いしてる可能性もある。だから言えなかった」
「そっか……亮の言う通りかもね。私の“好き”は、本物とは言いきれない。だけど、私はあなたのことが好き。亮も同じ気持ちなら……最後に……我儘言ってもいい?」
問い返すことなく、彼は唇を重ねた。以前とは違う、息の跳ね返る深いキス。
細長い指がパジャマの前を開かせて、顕になった肌をゆっくりとなぞる。
痣を避けながら滑る指は、身体の奥に疼きを与えた。
ちゅっと小さな音を立てて、徐々に唇が下へと移動する。足の付け根辺りで、我慢できずに声が漏れた。
亮の指と舌が水音を鳴らす。私の呼吸は速くなって、火照る身体に水輪が広がった。
「冬華……いい?」
「……うん」
彼とひとつになり、ゆっくりと身体が揺れる。滲み出る汗が混じり合い、更に熱をもつ。
亮は何度も私の名前を囁いて、私も彼の名を呼んだ。
やがて波にさらわれて、二人の息づかいだけが夜の空間に残った。
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