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「冬華さ、僕が声掛けた時、泣いてたよね」
「……」
ケーキの苺が、うまく刺さらなくて皿に落ちた。
「べつに無理して言わなくてもいいけど」
彼は自分の苺をつまんで、口の中に入れた。
「……付き合ってる人が高校の同級生で、二年前に偶然再会したの。今は一緒に住んでる」
「そうなんだ」
「私ね、クラスの女子からイジメられてた時あって、その時に勇斗……彼が助けてくれたの」
「へぇ、優しいじゃん」
「うん、優しい人だったよ。すごく好きだった。卒業する最後の春に、桜を見ながら一緒にお弁当を食べたの。勇気を出して告白しようって決めたのに、結局好きって言えずに、その時はそれで終わっちゃった」
彼はテーブルに片ひじをついて、私の顔を見つめた。
「じゃあなんで冬華は、そんなに好きだった優しい彼を置いて、こんな所にいるの?」
私が口ごもっていると、
「顔のここんとこ、それ痣だよね」
亮は自分の目の下辺りを指差した。私は化粧が落ちていることを思い出して、咄嗟に手で隠した。
「……最初はこんな人じゃなかった。仕事をクビになってから、彼は変わったの。ギャンブルで負けたり、機嫌が悪いとすぐ私に当たるようになって」
「 お金はどうしてるの?」
「私が働いてるから。昼は事務で、夜はバイトしてる」
「冬華は、その最低な男のこと、まだ好きなんだ」
「……」
「朝帰りなんかして、また殴られない?」
「それでもいい。亮、本当にしないの?」
「僕は恋人以外の人は抱けないよ。今夜は泊まるけど、ソファーで寝る。ベットは冬華が使って」
「でも……掛け布団ひとつしかない」
「暖房ついてるから平気だよ」
「だめ。もう何もしなくていいから、我儘いわないから、一緒に寝てほしい」
「……わかった。いいよ」
私たちは、身体が触れないように横になった。布団の中のぬくもりが心地よくて、私は安心して眠りにつくことができた。
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