桜が咲く頃に

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目覚めると、まだ隣には亮がいた。 「おはよう、よく眠れた?」 「うん、おかげさまで」 私はベッドから下りて、まだ若干湿気てる服に着替えた。 「亮、また会って欲しいって言ったら……迷惑だよね」 「別にいいよ、レンタルしてくれるなら」 「レンタル?」 彼はスマホを開いて、あるサイトを私に見せた。 そこには “レンタル彼氏 Prince《プリンス》” と書いてあって、キャスト一覧の中に、目の前の男の写真があった。 「えっ、なにこれ」 「僕の副業」 「なんで」 「お金がないわけじゃないけど、結婚資金と、婚約指輪を急いで買いたくて始めたんだ」 「これって、お客さんとデートするんだよね?」 「でも手を繋ぐ以上のことはしないよ」 「手は繋ぐんだ。なんか、目的と手段に落差がありすぎて……」 「そうだね、焦ってたとはいえ、今になっては不純だと思うよ」 「もしかして私に付き合ってくれたのは、営業かなにか?」 私は眉間に皺を寄せた。 「違う違う、レンタルしてって言ったのは冗談。いま入ってる指名が終わったら辞めるつもりだし」 「……なんか、複雑」 「じゃもう会わない?」 「……会う」 口を尖らせると、亮は息で笑った。 「大した力にはなれないけど、話くらいなら聞けるから、いつでも連絡してよ」 「うん、ありがとう」
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