桜が咲く頃に

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指定したカラオケルームで待っていると、しばらくして亮が扉を開いた。 「――なんでレンタルなんか、冗談だって言っただろ」 “Prince”で予約をした日から、LINEが何通もきていたけど、説得されたくなくてずっと未読のままだった。 「冗談なのはわかってる」 「ならどうして、わざわざ高い金払って。 カラオケなんかいつでも付き合うのに」 呆れ顔で彼は言った。 「違う、話がしたかっただけ。でも勇斗に見られたら面倒なことになるし、ここなら安全だと思って」 「だったら尚更、電話とか普通に会うでも」 彼は対面のソファーに座る。 「あれから本当に何もされなかった? 冬華は大丈夫しか言わないから気になってた」 「ごめん、実は少し叩かれた」 「やっぱり」 亮は確認するかのように、私の顔をまじまじと見た。 「大丈夫、痣になるほどじゃないから。私……この間、掛け持ちでバイトしてるって言ったでしょ、それ夜の仕事なの」 「キャバクラとか?」 「そう」 「全然似合ってないね」 「コンビニとかじゃ時給安いし。でもほんとは嫌で嫌でたまらない。なのに今度は、風俗で働けって、そのほうが稼げるからって言われた。それがショックで、あの日、うちを飛び出して来たの」 「――冬華、そいつと別れるって選択肢はないのか?」 彼は真剣な目つきで言う。 「逃げるとこなんて、どこにもないもん」 「実家とかは」 「無理。再婚した母には疎まれるだけだし。再婚相手からは時々いやらしい目で見られてたから、たとえそこに住んだとしても、勇斗との生活と大した違いはないよ」 亮は「あー、もう!」と言って頭を抱えた。 「ごめん嫌な話聞かせて。でも聞いてもらうだけでも気持ちが軽くなる」 「本当に話すだけで楽になるの? なんの解決にもならないのに」 「仕方ないよ、私弱いから。自分に自信が持てないの」 「だからって、このままじゃ……」 彼の辛い顔を見たくなくて、スマホの時刻を確認した。 「あ、そろそろ時間だよ」 「いいよ時間なんか気にしなくて」 「そういう訳にはいかないの、私は亮との時間を買ったんだから。今日はありがとう。じゃ、またね」 私は軽く手を振り部屋を出た。
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