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車で駆けつけた亮は、そのまま私を彼のマンションまで乗せて行った。
「しばらくの間、ここに居ていいから」
私は無言でコーヒーカップに口をつける。振動しっぱなしのスマホが煩わしくて仕方がない。
*
勇斗の元から逃げ出して、五日目。着信拒否をしたスマホは静かで、亮の部屋も快適に過ごせた。その分、この先の不安は大きくなる。もし勇斗に居場所を知られたら、亮まで巻き添えにしてしまう。
やっぱり戻ろう。私は小さな荷物をまとめて、亮が仕事から帰ってくる前に、と急いで部屋を出た。
「どこに行くの?」
エントランスでばったり会った彼は、右手の荷物を見て叱るような目つきをした。言い訳を探していると、
「今日は良い知らせがあるんだ」
と、笑みを浮かべた。
*
「これ、すぐ住めるとこと、働ける会社。どこも場所は遠いけど、その方がいいと思って」
テーブルに置かれたのは、二つの紙の束。ひとつは不動産のもので、もうひとつは事務職のある会社のもの。
「……ありがとう、でも、亮だけじゃなくて、他の人も巻き込むといけないから」
書類を彼に返した。
「軽く事情は話してあるし、大丈夫だよ」
私はこのまま甘えっぱなしで、中途半端に投げ出して良いのだろうか。
「――私、勇斗に別れるって言ってくる」
「それじゃ意味がない。それに今行ったら何をされるか、」
「きちんとけじめをつけたいの。その後に、住む場所と会社を選ばせてくれる?」
「けじめなんて、つけなくていい」
「このまま逃げるのは嫌。私は強くなりたいの」
引き止めようと彼は必死だったけど、私は絶対に折れなかった。諦めた亮は、一緒に行くとも言ってくれたけど、当然それも断った。
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