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「勇斗、私と別れて」
「やっと帰ってきたと思ったら、それかよ。他に男でもできたか」
「そうじゃない、勇斗のことがもう好きじゃなくなったから」
「ふざけんなよ、俺は許さねぇ」
「許されなくても、私は一生ここには戻らない」
「おい、そいつ今どこだ。ボコボコにしてやる」
「だから、男なんていない」
対峙して睨みつけると、お腹を思いっきり蹴られた。
「正直に言えよ!」
「……いな……い」
うずくまる私は、何度も殴られ蹴られ、踏みつけられる。
どのくらいの時間が経ったのだろう。身体に限界を感じた。このまま意識がなくなる前に……
「――私は一人で生きていくの!」
叫ぶと、勇斗の動きが止まった。
「……もういい、勝手にしろ」
軽く一蹴りされたのが最後で、やっと私は解放された。
*
足を引きずり歩きながら、亮に『終わったよ』とLINEを送った。
それからマンションまでの途中で、彼が車から降りるのが見えた。
「――冬華!」
「あー、すっきりした」
私は笑って見せたのに、亮は泣いていた。
*
病院から戻った私は、至る部位が包帯でぐるぐる巻きだ。奇跡的に大事には至らなかったので、入院は免れた。
「なにか食べる?」
ベットで横たわる私に彼は訊く。
「食欲ないから今はいい」
「そっか」
「代わりにキスして」
冗談のつもりだったのに、亮は屈んで口づけをした。軽く触れるだけのこれは、一体なんのキスだろう。疲れ果てていた私は、よく考える間もなく目を閉じた。
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