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 四月一日、水澤ネジが揺れた。  もちろんシネジがバズったわけじゃない。  洋子専務が倒れたのだ。かろうじて意識があった本人の指示の下、社用車で病院に行き、付き添ったベテラン事務員さんから「入院になりました」とベッドで管をいっぱい繋がれた専務の痛ましい写真が社内メールに届くなり、工場にいた社長が「洋子は!?」と事務所に駆け込んできた。 「どこの病院だ?」と詰め寄る社長に、こちらも古参の経理さんが「社長、奥様のかかりつけ医もご存知ないの?」と呆れる。 「今は面会も無理ですって。まったく、夫なのに洋子さんの不調に気づかなかったの?」 「だって、そんな、とにかく洋子に会わなきゃ」 「最近は若い娘に構ってたみたいだし、そんな男に洋子さんは会いたくないんじゃない」 「違う、俺には洋子しかいない。洋子がいなきゃダメなんだ。お願いだ。病院を教えてくれ。洋子!」  社長が人目も憚らず大声で泣き出す。その瞬間「うるさい!」と事務所のドアが開き、颯爽と洋子専務が現れた。
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