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 albatross(アルバトロス) ヒズミ  渡された淡いピンクの名刺に書かれた文字はそれのみで、代わりにQRコードがある。  読みとってみるとalbatrossなるガールズバーのサイトに繋がった。 「はあ?」 「どうしたの、望月くん」  俺の大声に驚いて洋子専務が顔を上げる。  書類でも見ていると思ったのか「数字、どっか変?」と言うのに「大丈夫です。すいません」と首を振る。  洋子専務は社長の奥さんで、総務はもちろん財務も経理もバリバリこなす俺たち事務方のトップだ。性格はまじめで潔癖。豪胆過ぎていささか無計画な社長を支える専務は実質的な会社の支配者で、そんな人にこの名刺の存在を知られたら俺はともかく社長は死ぬ。  終業間際、IT化とは縁遠い我が社の行動予定表であるホワイトボードに「外部打ち合わせ後直帰」と書いた俺は「打ち合わせ?」と専務に突っ込まれる前に足早に会社を出た。  電車に飛び乗り、改めてalbatrossのサイトを見る。ヒズミはキャストの女の子の名前で、写真も載っていた。紫のミディアムヘアでイヤーカラーというのか、耳の後ろだけ緑に染めている。他の女の子たちと同じ、ピンクや水色のフワッとした服を着ているけど、髪色のせいか妙にちぐはぐだ。  どうしよう、マジでわかんない。ここでミーティング?  もしかして取引先の接待とか?ガールズバーで?何で事務の俺が?  疑問まみれの俺を乗せて電車は駅へ滑り込む。真冬の夕方は既に暗い。albatrossはネオンで白んだ夜の雑居ビル二階にあった。安アパートみたいなドアを開けば、女性たちの「いらっしゃいませ」がくす玉みたいに弾ける。   安いシャンデリアで煌々と照らされた店内は甘い香水の匂いに満ちていて、普段なら絶対こんなとこに来ない俺は入る前から既にゲンナリした。      
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