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 我が株式会社水澤ネジが抱える危機。それは人材不足だ。ここ数年、新卒入社はおろか、既卒もいない。募集をかけても人が来ないからだ。  そりゃ大企業のような給与や福利厚生は望めないが、洋子専務の堅実な経営のおかげでうちは安定企業といっていい。  それなのに誰も来ないのはなぜか。我が社の知名度が低すぎるせいかもしれない。  ただでさえ町工場は仕事がきついイメージがある。その上、作っているものはネジ。子供のおもちゃから宇宙開発のロケットまで、ネジが入用な場面は広い。しかし目立って取り沙汰されるようなものじゃない。あるとしたらネジが不良品の時くらいだが、そんなことはあってはならない。  もちろん今いる人は皆優秀だし、新入社員がいないからといってすぐに会社がどうにかなるわけではない。でものんびりはしていられない。このまま人手不足が進めば、困窮は目に見えている。 「じゃあ有名になるためにchatterでもやってみたら?って私がみっちーに言ったんだよね」  ハイボール片手に滔々と「というわけ」を語る社長に、「いえーい」みたいなノリでヒズミが相槌を打つ。 「それでエイプリルフール」  ポツリと呟く俺に社長とヒズミはうなずく。  今やSNSは企業やお店にとっては手軽な広告ツールだ。  例えば、小さな喫茶店が載せたクリームソーダの写真が「レトロ可愛い」と評判を呼んで大繁盛したり、お客さんのヘアカットのビフォーアフターを載せた美容師がバズったり。  企業の広報にSNS担当がいるのも珍しくない。エイプリルフールに各企業がchatterで嘘ネタを流す話題づくりもお約束。  去年も大手ピザ屋が「新発売!ピザ幕の内」とピザを幕の内弁当のように盛り付けた写真ネタはSNSを超えてテレビのニュースでも取り上げられるほどウケていた。 「とりあえずアカウントは作ったんだけど、みっちー全然むいてないの。投稿しないし、してもつまんないし。フォロワー私しかいないの。だからエイプリルフールネタで一発逆転するためにもっちーに白羽の矢がたったってわけ」  なるほど。わけはわかった。わかったけど、まだわからない。
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