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「それって、そういう……?」
「まさか。私、バンドでメジャーデビューが夢だもん。ここもただのバイトだし、愛人なんかやったらスキャンダルじゃん」
憮然とするヒズミに俺はほっとする。と同時に思い出したのは洋子専務のことだ。
そういえば最近の専務は少し疲れている気がする。年度末で忙しいせいかと思っていたけど、社長がヒズミに迫りまくっていることへの心労ならいたたまれない。
そんなことを思ったばかりだったので翌日「望月くん。このalbatrossって店の領収書なんだけど」と洋子専務に声をかけられた俺は心臓が飛び出るほど驚いた。
「随分よく行ってるけど、ガールズバーみたいね。額としては低いけど、打ち合わせってここじゃないとダメなの?」
「実は外部アドバイザーさんが、ここの店員なんです。すいません、結果が出てないのに。最近はエイプリルフールネタを考えるのに何度も行かざるを得なくて」
「結果が出ないアドバイザーなら辞めてもらったら?」
「あの、そうなんですが、紹介された人なので紹介者の顔を立てる意味でもエイプリルフールまでは」
「紹介者って社長?」
「え?」
洋子専務の、実に専務らしい直球に俺はフリーズする。まずい、一体どこまでバレてるんだろう。
「望月くんて嘘苦手よね。まあ、エイプリルフール、頑張って」
颯爽と立ち去る洋子専務の背中に怒り狂う阿修羅が見え、俺は震えあがる。
そんな俺のポケットでさらにスマホが震えている。ヒズミだ。「みっちーがマジやばい」というメッセージ。確かにみっちーマジでやばい。
「店開くまで待てない。すぐ出てこれる?」というのに「ランチなら」と送り返して俺はため息をついた。
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