いただきます

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   と、姿が消えてしまった三人の男の子たちでしたが。  いました。広場の隣の駐車場で、お兄さんにぺこりと頭を下げています。 「ごめんなさい」  お兄さんは三人の肩に、ぽんぽんと手をのせました。 「ぼくじゃなくて。さっきの子に、あやまらなくちゃな」 「うん。あやまる」 「かくれんぼ、たのしかった」 「バイバーイ」  さっき、男の子をつきとばしたのと同じ子たちなのですが、まるで別の子どものように様子がちがっています。すなおな笑顔をかがやかせて、お兄さんに手をふり、広場へかけだしました。三つの背中を笑顔で見送ってから、シロに目をむけ、お兄さんは肩をすくめました。 「いっぺんに三人も食べるからだぞ。さっきお弁当分けてもらったのに、食べた分、全部使っちゃったな」  シロは、お兄さんの片方の手のひらに、ちょこんとのっかっています。いつのまにか、こんなサイズにちぢんでしまったのです。ぺたりと力なく耳をたらして、黒い豆粒の瞳に見つめられると、お兄さんも困ってしまいます。 「もうおなかすいた、っていわれてもさ。善意はなかなか、ないんだよなあ」  もらうのが難しい上に、善意に見せかけて、悪意だったりすることもあるのです。以前に、わざとシロにいたんだ食べものをもってきた子もいました。  さっきの三人の子どもたちのように、悪意をシロが人ごと食べて、悪意だけをきれいに消化し笑顔で帰してあげることは、善意をたくさん食べておかないとできません。駐車場をぐるっと見回して、お兄さんはためいきをつきました。 「悪意は、あるんだけどな」 停めた車の中で、耳にあてた電話に文句をどなるおじさん。売店で、自分がジュースをこぼしたのに店員のせいにするお姉さん。  さっそく、シロがあんぐり口をあけます。あわててお兄さんはとめました。 「だめだめストップ、悪意だけ食べるのはだめだって。善意も食べないと。うまく消化できないだろ。悪意の持ち主まで腹に溶かして、もどせなくなるぞ。のみこんだまま」  持ち主をおうちに帰してあげられないなんて、大変なことです。 「とにかく。探すしかないか」  お兄さんは、駐車場をあとにして歩きだします。手のひらの上で、シロの耳が、ぱた、ぱたとゆれました。 「ん? のみこんで溶かしていいから食べさせろ? いやだめだろ、よくないだろ。おなかすいた? がまんできない? でもだめ。だめだめ、ゼッタイ、だめ」  左右に大きく首をふって、お兄さんはシロにこわい顔をしてみせます。  だいじなことなので、しっかりと目を見ていいきかせました。 「いいか。ごはんは、バランスよく食べないと。食事の基本だ。いつまでたっても大きくなれないぞ」  終
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