いただきます

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 春もさかりの、お天気のいい日のことでした。  リュックを背負った子どもたちが、緑の広場にちらばっていきます。小学校から、バスにのって遠足にやってきたのです。班ごとに分かれて、おひさまの光にあおあおとつやめいた芝生の上で、お弁当を広げます。 「うわぁ、かわいい」  芝生の広場にとおりかかったお兄さんを指さして、女の子が立ちあがりました。白いシャツを着たお兄さんは、白い子犬を抱いています。まわりの子たちもかけより、お兄さんと子犬をかこんで、子どもたちの輪ができました。 「名前、なんていうんですか」 「シロだよ」 「白いから?」 「そう。すぐ、覚えられるでしょう」  ふふ、とお兄さんは春風のように女の子に笑いかけます。抱えられたシロは、まっ白な体のなかで、一つだけ黒い、豆のように丸いつぶらな目を子どもたちにむけていました。ほえることもなく、女の子が、手をのばしてなでても、じっとして動きません。 「シロ、元気ないね」 「だいじょうぶ?」 「今ね、おなかがすいてるんだよ。早くごはんをあげたいんだけど」 「おなかすいてるの?」 「ごはん、じゃあこれあげるよ」  からあげ、ウィンナ、たまごやき。小さな俵の形のおにぎり。お弁当箱からとりだして、子どもたちが手に手にさしだします。 「ありがとう」  お兄さんが、みんなを見回してお礼をいうと、ぱっくりと口をあけたシロは、一口でたいらげました。 「あ! すごく、尻尾ふってる」 「シロ、おいしかった?」  お兄さんの腕の下にはみだして、ぶんぶんはためく尻尾が返事のようです。子どもたちもよろこんでいます。 「よかったぁ」 「シロ、大きくなったんじゃない?」 「ほんとだ」  シロは、さっきまでお兄さんの片腕に、すっぽりおさまっていたのに、今はお兄さんが両腕を回さないと抱えられないくらいにふくれています。すこし重たそうですが、お兄さんも微笑んでいました。 「うん、育ったね。お弁当を分けてくれたみんなのやさしさが、とてもうれしかったんだな。みんな。ほんとに、ありがとう」  子どもたちもにこにこ笑いあって、お兄さんとシロに、目も口も半月をえがいて丸くなったにっこり笑顔を返します。
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