一幕

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 紅花は空中を見つめ、目視で幽鬼を捜しながら興味本位で飛龍に問う。 「宋帝王の区域のみ後宮なのに男性の出入りが許されていると聞くけれど、本当なのね」 「ああ、そうだね。後宮にいる男は大体俺のお手付きだよ」 「皇后様や皇貴妃様はこのことをご存じで?」 「俺がこういう奴だってことは皆知ってるよ。妻のことは好きだけど、それはそれとして男が好きなんだよねえ」 「…………」  宋帝王は一応、邪淫の有無を調べ、裁く王であるはずだ。その王自身がこのようなことで良いのだろうか。  そこでふとあることを思い付く。 「まさか、魑魅斬も……?」  大体お手付き、という言葉に引っかかった。あの屈強な男が飛龍の下に敷かれるなど想像も付かないが、この後宮内にいるということは飛龍のお相手でもおかしくはない。  飛龍はにやりと笑った。 「さあ。どう思う?」  答える気はないようだ。そもそもどちらでも紅花には関係がない。これ以上無駄話をするのはやめておこう、と飛龍の傍を離れる。  その時、声がした。 『お前の刀、嫌いだ』  見上げると、池の近くの木々の間で、白い靄のようなものがゆらゆらと揺れている。実体はないが、紅花の方を見ているように感じた。 (何が〝意思を持たない化け物〟よ)  花よりもはっきりと声が聞こえる。おそらく幽鬼にも思考はあるのだろう。 「後宮から出ていってもらうことは可能かしら?」  幽鬼に向かって問いかける。  先程の説明通りであれば、幽鬼は死者の魂の中にある憎しみのようなものだという。生前の罪を裁き、地獄に落とした十王を恨んでいるというのであれば筋違いだ。 「罪の責任は、取るべきものよ。恨むなら自分自身にしなさい」 『ア……ア……嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼――』  さっきは確かに言葉を喋っていたのに、突然意思疎通が困難になった。  強風が吹き、勢いよく白い靄がこちらへ向かってくる。紅花は咄嗟に桃氏剣を幽鬼に向かって投げた。ずしゅっと確かに何かを刺したような音がし、直後、悲鳴が木霊す。鼓膜を破られる程の大音量に、思わず耳を押さえて蹲る。  悲鳴はしばらくして途絶えたが、がんがんとした頭痛がいつまでも続いた。
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