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紅花の部屋は、玉風と同じ冷宮の上階の一室である。宮殿とはいえ王の后たちが住むような立派な造りでは全くなく、外の風が吹き込むぼろぼろの部屋だ。雨の日は雨漏れしている。
「嬢ちゃん、やっぱり幽鬼を見つけるのが早いよな。殺しも問題なく遂行できてる」
魑魅斬が今日の成果を見ながら感心したように言った。
最近は、魑魅斬を部屋に招いて一緒に食事を取っている。玉風も少しは食べられるようになったが、まだ本調子ではないようで、すぐに眠ってしまう。実質、魑魅斬と二人の食事だった。
「よし。嬢ちゃんになら任せてもいい」
何を?
文思豆腐を食べながら続きを待つ。魑魅斬が囁くように言った。
「実は、宋帝王の皇后が宮殿で大事に愛でていた花を盗んだ鬼がいるらしい」
なんと命知らずなことをするのだろう。花を盗んで得られる利益より、皇后の宮殿に入って罰せられる危険性の方が余程大きい。
それに、八大地獄がこんなにも近くにあるというのに盗みの罪を犯すとは。愚か者のすることとしか思えなかった。
「皇后も、本来ならこのようなことでは大事にしなかっただろうが……盗まれた花は、生花の髪飾りを作るために大切に育てていたものらしくてな。捕まった鬼は公開処刑されることになった」
「公開処刑?」
「王や皇后への無礼を働いた者を、皆の目の前で晒し上げ、殺す行いだ。同区域の王だけでなく、皇后や皇貴妃、貴妃、后、侍女や武官たちも集まる。盛り上がるぞ」
「趣味悪……」
思わず本音が漏れてしまった。
「貴きお方の考えることはよく分からない。罪人が殺されるところを見て何が楽しいの。娯楽にするべきことじゃないわ」
「まぁそう言うな。見せつけることで後宮内の治安維持にも繋がるんだよ」
「それは分かるけど……」
「そんで、ここからが本題。――嬢ちゃん、お前今回の処刑人をやらないか?」
(処刑人!?)
聞き間違いかと思い魑魅斬を凝視する。その様子がおかしかったのか、魑魅斬はけらけらと笑った。
「公開処刑を受ける者が鬼の場合は、鬼殺しが処刑を実行することになっている。いわば鬼殺しの大仕事だな。身分の高い后たちのお目にかかれる喜ばしい仕事だ」
「うーん……」
「っはは、嫌そうだな。ならこうしようぜ。この仕事を無事遂行することができたら、しばらく暇をやる」
紅花はぴくりと反応する。休みさえあれば閻魔王の区域へ向かうことができるからだ。
「本当?」
「おー。嬢ちゃん、後宮内を探検したがってたろ。最近の鬼殺しはお前のおかげで順調だし、この分なら休みもやれる」
魑魅斬は、紅花が頻繁に地図を開いているのを見て探検したがっていると思っているらしい。実際は閻魔王の区域との距離を地図上で眺めては恋の溜め息を吐いているだけだが。
「……分かった。処刑、やってみるわ」
紅花は力強く頷いた。
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